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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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「あなたがティア・ブラスフォードでしたか。よくぞ無事で」
なんなんだ、この太った教長は。階級をムシした愛想の良さは。汗ばんだ丸っこい手も、生ぬるくって気持ち悪い。

前にここに来たときは、顔も見せなかったくせに。
教会の宿房は改修中だと、宿屋の紹介状をモルに押し付けたあとは、知らんぷりだった。出航の時も、教会関係者はだれも見送りに来なかった。船代も出してくれなくて、クインポートの教会に、いわば着払いしてもらうはめになった。

男のシットってヤツかな。手柄たてる幸運にめぐまれた若い天才司祭への。
だけど吸血鬼の始祖を倒せば大手柄。ねたましくても無視は出来ないよね。あの、インケン野郎の威光をカサに着るのはヤだけど、路銀くれるまではガマン。

「メンター副司教長の愛弟子でいらしたとは」
なんだ、そっちか。
冷たい仕打は、副司教長派とモル派のハバツ争いか。ったく、いい大人が下らない理由で大マジメにイジワルするなんて。アホというかバカというか、オロカ者?

「シンプディー家を通じて、早く無事をお知らせしなくては」
メンター先生の生家…腹違いの兄ちゃんがキングポートで支店やってたっけ。教会に多額の寄付してる大商人の機嫌を取りたかったわけだ。ということは師匠のツテで金借りるって手もあったかな。

「あの、モル司祭と…ラットル司祭は?」
「ああ、モルなら先を急ぐといって、船でついたその日に馬車で立ったな。ラットルのヤツは、3人の哀れな犠牲者の付き添いでここへ来た次の日、やはり馬車で行きおった。
まったく、討伐隊の帰還は自分たちで最後だなんて、イイ加減な事をホザきおって」

ラットルはあたしのこと何も話さなかったんだ。ブンなぐったのが効いたかな。

「あたしも追います。駅馬車か、隊商でもいいや。紹介状ください。旅費も」あ、いま面倒くさそうな顔した「ホーリーテンプルに戻ったら、教長さんのお心遣いとご親切は、メンター先生にくわしく報告しますから」
広くて重そうな机に便せん出して、むすっと羽ペンを走らせる教長を、笑顔で監視する。

首にかけたカギを使って、豚を浮き彫りした金箱から出してよこしたのは皮の小袋ひとつ。中身は全部金貨だった。これなら宿泊費込みでウォータまで行けるかな。

受取りに署名してたら、ついでだとメンター先生への手紙を書かされた。結局、金貨を内ポケットに入れることが出来たのは、『教長さんに大変お世話になりました』と書いて検閲うけた後だった。

「ところで、城跡の掃除はすんだんですか」
期待せずに聞いてみた。
「今までの罪を悔い、街の者や旅の者に迷惑をかけぬよう説得をしておるのだが、なかなか」
「つまり、何にもしてないんだ」
「うちには騎士や拳士が常におるわけではないからの」

やっぱあいつら野放しか。教会に集まる金をうまく使えば一掃できるのに。テンプルの善意と正義なんて、しょせん人形劇の中だけだ。

「お邪魔しました」
これ以上詳しく聞けそうにないし、もらう物ももらった。そろそろお腹も減ってきた。教官用のパンを分けてもらったら、連れを探しにいこう。
適当に宿をあたって、昼間から最上級の部屋で寝込んでるヤツがいないか尋けばすぐ分かるよね。偽名はリチャードのままかな。

「さっき人形劇みてくれてましたよね。黒いフードの人と一緒に」
ニオイで探し当てた食堂入り口で、マジメそうな見習い司祭に話しかけられた。3人分のパンと野菜煮込みのツボを左脇のカゴに入れてる。パシリくんか。

「ミサゴ亭で待ってるそうです」
リチギに伝言…
昼間の寝所をバラすなんて、バカか?
あたしが尋ねまわる方が危険と思ったのかな。

とりあえずお礼を言って、パンをもらいに行こうとしたら、袖をつかまれた。
「東大陸のナマリ、ですよね。あの人もあなたも」
「それが、ナニ?」
「東大陸の人は、なんでヴァンパイアと戦おうとしないんですか?」
 真っ直ぐな質問。さすがは人形劇担当さんだ。

「自分たちのことなのに、モル司祭様に任せっぱなしじゃないですか。僕、アレフの犠牲になった討伐隊の人の世話してるんです。最近、呪縛がヒドくなってきてます。魔物が力を増してきてるんです。早くなんとかしないと、みんな餌食になるのに」
 それ、単に呪縛のモトが近づいたからだわ。

けど…
あたしはなんで、あの時ホーリーシンボルを中止したんだろう。
今もだ。
滅ぼす気なら、こいつが面倒みてる3人を証しに、告げ口すればいい。

高い天井を支える黒いハリや、奥の壁に描かれた七聖の漆喰画に目を向けて考えた。
金目当て、力目当て、仮の不死が便利だから。理由は色々あるけど。
分かった。
得にならないからだ。
お金がかかるし、面倒くさいし、ケガしたくないからだ。

みんな他人事だと思ってるから本気で戦わない。報復が怖いから、何もしない。
正義だとか、あるかどうか分からない将来の危機より、今日の生活や自分とまわりの安全が大事だから。

「キングポートの人はどうして城跡をほっとくの?」
問い返してやったら、口ごもって答えないでやんの。
「みんなに累がおよばないよう、東大陸から来たあたし達がなんとかしたげよっか?」

あいつらは奪った荷をどうやって換金してるんだ?この街に連中を利用してるヤツがいるんじゃないかな。
テンプルを敵に回すことになる仇討ちに、アレフを巻き込んだあたしみたいに。

「城跡に行く気ですか、無茶です」
「…冗談よ。気にしないで」

けど、やってみてもいいかもしれない。
あの2人が本当に使い物になるかどうか、わかるから。

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