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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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腕の中に命の温かみを感じながら、首筋に口づける瞬間を思えば気持ちは高ぶるが、身体はすくむ。ここではどう言い繕おうとも法を犯す行為だ。

「お任せいただけるなら、夕方、目覚められる頃にはご用意出来るかと」
ゆっくりと首を横に振った。どんな理由を付けても宿に人を連れ込むのは危険だ。ドルクに任せれば…おそらく贄となった者は後腐れないよう殺される。
(では、狩りをなさいますか)
他聞をはばかる話題は、心話か。

人形が戦っていた赤い舞台が片付けられ、戦士や司祭になりきった子供らが、はしゃぎながら行き過ぎる。無邪気な姿を見送りながら、幼な子の喉の感触を想起している自分が嫌になる。
(他領の民を無断で贄にするのは、禁じられている)

建前で進言をさえぎり、人形や小道具を木箱に納めていた見習い司祭に声をかけた。
「私と共にいた聖女見習いに、そこの、ミサゴの旗を掲げている旅宿に居ると伝えてもらえますか?」
快諾を得て、パンを求めて並ぶ者達を横目に、宿へ向かう。

道にまだらな影を落とすナラ並木の端で、ドルクが追いすがってきた。
「庭の花を盗れば泥棒ですが、野の花を摘むのに断る者がいましょうか?」

(無断も何も、エイドリル様も他の太守もとうに滅びております。この地に生きる人間は誰の物でもありません。人間共もそう信じております。自分達は自由だと。
庇護者を失った人間をアレフ様がどうなさろうと咎める者はおりません)

「ですが野生化した家畜に手を出せば思わぬ反撃を招きましょう」
(狩るのでしたら群れからはぐれた弱い者を)

心の奥に恐れと罪の意識を押し込めながら、人を襲うよう勧める従者の矛盾が面白い。
ドルクの命はアレフの命に結ばれている。心が痛むからといって、命を繋ぐ行為を…血を啜るのをさまたげることはない。

「この街では、やめておこう」
くちづけを与えた者が増えれば危険が増す。その事は船で学んだ。1人なら問題にならない。だが、2人目、3人目となれば、偶然という言葉は力を失う。この街にはすでに既に5人。たまたま集まっただけとはいえ、多すぎる。

部屋の支度が整うまでと案内された宿の1階を占める食堂は、早めの昼食を取る客で混み始めていた。魚を掴み飛び立とうとしている猛禽類の木像に見下ろされながら、バフル産のワインを含んだドルクが、不快そうに首を振る。飲めないグラスをもてあそびながら、気になっていたことを口に出してみた。

「ドライリバー城はどうなっているかな」
「劣悪な船倉で海を越えてきたワインと同じでしょう。混乱期を経た王城にかつての香気など」
「実際に見たわけではないだろう」
「お確かめになりたいのですか?」

一つの丘をふもとまで覆いつくす壮麗な城だった。ウェゲナー家の為に用意されていた南斜面の棟ですら、東大陸のどの建物より大きく贅沢に造られていた。
鏡のような花こう岩のテラスから眺めた景色が脳裏に蘇る。平原をうねる大河の彼方に、この街の灯がまたたいていた。

部屋が整った旨を伝える亭主の言葉に立ち上がると、ドルクもグラスを置いた。
「では、為替を換金するついでに、ドライリバー城へ行く手段を調べてまいります」

テーブルを片しにきた給仕は嬉しそうだ。高価なワインがほとんど手付かずだからか。せっかくの余禄が劣化しているとも知らずに。いや、本来の香りを中央大陸の者が知る術などないか。

それに、ワイン工房を所有しながら一口も味わった事のない身の上では、給仕を笑う資格はない。

部屋へ案内される間、前をいく亭主のうなじを眺めながら、飢えの予兆である苛立ちを自覚した。
最後の食事は4日前、船上だった。陽光と水で力はだいぶ減じたが、足下に地の力を感じる地上でなら、もうしばらくは耐えられる。

それにしても、しもべが5人もいて一滴の血にもありつけないとは。所領であるなら「疾く来よ」とでも念じれば、すぐに満喫できるものを。
…これが人の世界、自由の大地か。

鎧戸を閉めカーテンを引き、薄闇に沈んだ寝室でものうく身を横たえる。
まだ波に揺られているようで訪れる眠りが浅い。きれぎれの夢の中に望郷の兆しを感じていた。

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