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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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花こう岩で組まれカキ殻の粉で化粧をほどこした白い街に足を踏み入れた時から、馴染みの…そしてあり得ないはずの感覚に悩まされていた。

記憶を封じると同時に絆もほとんど断ってしまったジェームズ親子は、壁と鉄柵に囲われた丘の邸宅街に入り、アレフが意識を向けても微かな気配を感じるのみ。人足に遠慮しながら、上陸前に押し付けられた全員分のハンモックを干している見習い水夫も関係ない。
まったく別の…しもべの気配。

教会に近づくほどに気配も近づく。意識を向ければすぐに何者か判明するだろうが、場所が場所だけに接触するのが怖くなる。

相手を知ることは、こちらの居所を知られる事。
慎重に慎重を重ねても足りない。

昨夜、己の詰の甘さを思い知らされた。

船内では誰にも見られぬよう注意深く事を運んだつもりだった。実際には疑惑の中心にいた。仮病や人を装う幻術だけでは不足だった。
人々の日常感覚や常識といった分別くさい思い込みこそが、強力な幻術となっていた。

首筋に冷たい牙が当たる瞬間まで、そんな災難は他人事だと無邪気に信じている人々のお陰で、無事この地に立てた。だが、いつ狂騒的な暴力に変わるか予測できない集団幻想を、過信するのは禁物だ。

不快で扇動的な人形劇から目をそらし、意地の悪い笑みを浮かべ、しつこく覗き込んでくるティアを無視しようと努力していたとき、感じていた気配が誰のものかわかった。
目覚めた直後に貪った3人の自称英雄たち。

心を無にして静かに意識を向ける。
3人が感じているのは、吸血された者特有の疲労感。昼食にたいする期待。そしてアレフが感じていたのと同じ、もう一つの己を感じる奇妙な感覚。

感覚の理由に彼らが思い当たる前にこの街から去りたい。
そんな衝動を抑えて見続けようとしたとき。
「アレフ、覚悟!」
人形につけられた自分の名に動揺して、わずかに心が漏れた。

とっさに3人を眠らせたが、かえって事態を不味くした気がする。夜にでも記憶を封印して絆を弱めるか、いっそ正気を完全に奪って発言の信用度を…

それより、ラットル。
ティアを火刑にしようとした司祭。
3人をここまで送り届ける道中、恩を押し付け、ありもしない手柄を証言するよう強制していた臆病な司祭。その居所を読み取る前に眠らせてしまった。

鐘楼を備えた建物へと向かうティアの肩を慌てて掴んだ。
手を打たれる前に、心話を送り込む。
(そのスタッフの元の持ち主がここに居るかもしれない)

軽く舌打ちしたティアに右手を弾かれた。
「…やっぱ殺しておけばよかった」
肩越しの恨みがましい目。殺害を止めた事をまだ根にもっているのか。目を逸らすついでに、テンプルの基本教義を子供たちに叫ばせている、3体の人形を視線で示す。
「それと、彼らがここで療養している。私が近くにいると感づかれた」
「血の呪縛が祟るのは、吸われた方だけじゃないってことね」

皮肉な笑みを浮かべて教会へ向かうティアから一方的な心話が送りつけられる。
(あんたの操り人形が何か言い出したらデマかせ並べて切り抜ける。ラットルがいたら叩きのめす。あ、でも教会内では殺らないから安心してね)

ティアが何を保障したところで、安心など出来ないが、ついていけばもっと厄介なことになりそうだ。待つしかないが…陽光の下は辛い。

「近くに宿がありました。金貨を見せれば部屋を用意してくれるでしょう」
足音も無く近づいたドルクのささやきに、かすかなうなずきで返す。
「それと…ティアさんが離れているうちに“食事”を済まされますか?」

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