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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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セントアイランド城の広間には、新しい不死者の誕生を祝福するため、ヴァンパイア達が集まっていた。

月明りだけを照明にした、花と血の香りが混じり合う祝宴。そこには酒も料理もなかった。悲しげな笑みを浮かべた、あるいは強ばった顔をした、若く美しい人々が宴席にはべっていた。彼らがこの宴の美酒であり佳肴だった。
そんな生け贄たちは、滑らかな足取りで始終入れ替わり、何人いるのか主賓であるアレフにも分からなかった。

笑いさざめきながら、気が向くと側にかしずく若者や舞っている乙女を捕え、牙を閃かせる同族たち。10人いたはずだ。中には誇らしげな父の姿もあった。夜明けまでに幾人かの若者と乙女が青白い者たちの間で冷たくなっていった。

さっきの少女から受けた衝撃が生々しく心に残っているにもかかわらず、促されて、側に控えていた若者を呼んだ。
「男は量がたっぷりあるし、熱いですよ。ためしてみなさい」
笑顔で勧めた同族は、乙女のぐったりとした体を抱き締めていた。

短髪の若者は覚悟しているように前に来てうなだれた。背は少し低いが体つきはしっかりしていた。筋肉のつきかたから普段力仕事をしているらしいと見当をつけた。アレフの知らない世界を知っている若者。雰囲気に流され目で射すくめる前に抱き寄せた。

不意に腕の中の若者の筋肉が盛り上がった。無言で若者は巻き付いた冷たい腕から逃れようとした。それを押さえつけていられる事に優越感を覚えながらゆっくりと締め上げていったのを覚えている。やがて若者から挑戦的な気迫が失われ力が抜けた。顔に敗北と諦観が現われた。

屈伏させ無抵抗になった若者の喉に唇を這わせたときに再び疑問が沸いてきた。
血への期待でわくわくしているのは本当に自分なのだろうか。さっき少女の命を貪り、まだ飽き足らずにまたあの快感と高揚感を求めようとしている。この欲望や悦楽は、施術の時植え込まれたものではないだろうか。昨日までこんな欲求は無かったはずだ。

他の心の動きは人だった頃とあまり変化してはいない。この血に対する欲求は術によるもののはずだ。このどうしようもない欲望。己があさましい訳ではない。これは仕方のないもの。真始祖ファラが植え込まれた恩恵なのだろうから。

しかし若者の喉に牙を突き立て血とともに心を味わっていた時、違うのではないかという疑念が広がった。

若者の心は乱暴な争いと勝利の喜びに満ちていた。苦しい生活の中で真に生きていると実感出来るのは誰かと殴り合いをしている時。そして、はずみで人を殺してしまった若者は、償うためにこの宴を選んだ。

ただ従順に贄になるのではない。本当に不死者が人間離れした力を持っているのか、命がけで試したいという挑戦的な気持ちもあったようだ。自分のほうが強いはずだと根拠の無い自信を抱いていた。若者を捕らえた華奢な腕が、容赦なく締め上げてくるまでは。

アレフが驚いたのは若者が血を見て興奮した記憶だった。なぐりつけ、血が飛び、唇が切れて塩辛い味が広がる。若者はそれを楽しんでいた。そして今アレフが感じているのにそっくりな高揚感を覚えていた。

知識では血の色が人を興奮させる事を知っていた。しかしそれは単なる知識だった。闘鶏や闘犬が行なわれている場所には足を踏み入れなかったし、事故やケンカに群がる人々を侮蔑の目で見ていた。知ってはいたが自分とは関係の無い衝動だと思っていた。

しかしアレフも野蛮な彼らと同種の生き物だった。昨日までは。そして基本的に不死者へ変化するとき精神はほとんど変化しないということになっていた。

慄然としてアレフは若者の喉から口を離した。若者が呻きながら退がるのにまかせた。

この浅ましい欲望は、血を味わう時に覚える高揚感や歓喜は、元もとあったものではないのか。人間なら誰でも持っているもの。それが表に出てきただけかも知れない。実現するだけの社会的な地位と物理的な力を得て、あらわになっただけの事…その考えは自らの偽善性を暴いたような気がして、しばらく心を悩ませた。

今となっては元からあったものであろうと植え込まれたものであろうと、増幅されたものであろうとアレフの本質の一部を成している。

あの少女以来、この欲求を満足させる際に腕の中で殺した事はない。配下となる力を分け与えた死者を作ったこともなかった。アレフが滅びるとき彼らは道連れになるのだ。そんな重荷を負いたくはなかった。

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