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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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早朝から刈っていた牧草が、腰の高さまで積みあがったところで、老人は山を見上げた。紫にかすむその中腹に堅牢な城の輪郭が見える。
近くはボヤける老いた目も、景色を見るには支障はないわい。
朗らかな気分で、先日、村に来た彼らの事を思い出していた。

あの3人は自信たっぷりだった。年は下のセガレより若い…30前後だろうか。
銀色に輝く鎧をつけた隆とした戦士、法衣をまといテンプルの存在意義と為し遂げてきた戦果を熱心に語る若い司祭、優しく笑んで村人の不安を闇に怯える子供と同じ、と評した聡明そうな聖女。

代理人以外の村人を広場に集め、彼らはこれから山の城に潜む血に飢えた悪鬼を滅ぼしに行くと宣言した。うろたえ騒ぐ村人を制したのは司祭の放ってみせた炎だった。火炎はまっすぐ立ち上り天を焦がすかと思うと、また司祭の手の中に消えた。

「人は無力ではない。我々テンプルは長い研究と鍛練で、バンパイアどもの邪法を打ち破るすべを編み出してきた。もう怯える必要はない。盗んだ命で不自然に長らえてきた化け物を、本来あるべき虚無へ叩き込んでやる」

村人は顔を見合わせた。やがて一人が賛同した。老人も賛同した。あとは雪崩のよう。人々は口々に3人を激励した。最高のチーズや酒が振舞われ、テンプルからきた戦士たちをもてなした。彼らは村人に山の城主の事を聞けるだけ聞くと、翌朝、みなに見送られて出発した。

1人をのぞいて村人は期待に胸をふくらませた。
山を見る目は、かつてのような怯えと不安ではなく、期待と喜びに満ちていた。
そろそろ戻る頃ではないだろうか。

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