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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
性別:
女性
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キニルは、ムカつく思い出ばっかりだ。
泥水をすすった事は何度もある。中でもキニルの水が一番臭かった。そのせいか食い物もまずい。
そして…
ヤな思い出がまた一つ増えた。

ティアは熱《ほて》ったほほをふくらませて、にらみつけた。
黒いマントに包んだ肩をふるわせて、笑いの発作に耐えている道連れ。このクソ吸血鬼、知ってたな。教宣用の人形劇が変わってるって。

歌にあわせて揺れてる金褐色の髪。あの聖女人形があたし!?何でテオと恋仲なのよ。
つーか、わざわざ陽の高い時間に教会に誘うか。こんなクダらない嫌がらせのタメに。

もしかしてキングポートでからかった…仕返し?
1年も前の、それも軽い悪ふざけじゃない。今ごろやり返すなんて気が長いにもほどがある。

スネをぶっ叩いてやろうと、スタッフを回した瞬間。
「もしやティア聖女。うぶわっ」
笑顔で駆けよってきたキニル西教会の司祭のケツにスタッフが当たった。法服に包まれた脂肪のカタマリが倒れてくる。支えきれず、教会前の広場に尻もちをついた。

手使い人形を見てた視線がこっちに集まる。逃げようもなく子供たちに取りかこまれた。謝りながら引き起こしてくれた司祭と、ヨダレ臭いハナたれガキの向こうで、黒いフードの下の赤い唇が声もなく動く。
『タ・ノ・ン・ダ』。
そのまま、アレフは視界から消えた。振り向きもしない。

「いやはや、最前線におられる方は常に臨戦態勢でおられるのですね。不用意に近づいた私も悪いですが、ここは夜を退けし光の地。どうか得物はお納めください。それにしても…どうやって、森の大陸の南端から?」

「話すと長く…えっと、機密です」
タネはポケットに入ってる水晶球。転移の呪なんてメンドくてややこしそいモンを、よくちっこい玉なんかに収めたモンよね。呪の本体は亜空間にあるケアーって、脳みそだけのオートマタらしいけど。

何ヶ月もかけてたどった道を、一瞬で移動できるのはすっごく便利なのに…何でヒミツにしなきゃいけないんだろう。ファラを滅ぼした時と同じか、それ以上の混乱が起きるって、大げさすぎないかな。

「機密ですか。それで当教会に寄られたわけは」
「その、大門を通る許可証と、馬車の手配に。あ、時間が時間だし、お昼食もいただきたいな」
髪をひっぱるガキを笑顔でにらみつけてから、教会の門に突き進む。

だいたい、結界があると作動しない呪を広めたところで、なんて事ないと思う。結局は橋を渡ってホーリーテンプルに入らなきゃいけないなら、意味がない。正門から入るんじゃ泥棒も暗殺も出来ない。


集まってきた聖女や生徒の握手ぜめを乗り越えたあとは、視線に耐えながらの昼飯。マズさ五割り増し。こんなのにずっと耐えてきたモルを、初めてスゴイと思い始めた頃、通交証と馬車の用意が出来たって言われてホッとした。

えらい人しか乗れない…師匠のお供でないかぎり、見習いには乗車許可が出ないはずの馬車に乗って大門をくぐったのは、日が傾き始めた頃。御者がワザとゆっくり馬を走らせるもんだから、橋の上ではいい見世物。最初は少し気持ちよかった、あこがれとヤッカミの視線も、その頃にはウザくなってた。

その上、車寄せから白亜の正門まで、灰色の法服で埋め尽くされていた。すこし物見高い参拝者も混じってる。笑みを義務のように顔に貼り付けた。ここで憎まれ口たたいて警戒されたらマズいってのはわかってる。

だけど、あたしを仲間はずれにした奴らが友達顔でベタベタしてきた時には、苦笑しか出来なかった。

視線から逃れられたのは、便所だけ。
さすがに調子のいい同期生も遠慮してくれた。

「ようこそ、ホーリーテンプルへ。11番目の血の盟主、アルフレッド・ウェゲナー」
呼びかけて、心話を試してみる。
(どう、イケそう?)

わずかにアレフの気配を感じた。左手薬指の青い指輪。マジで結界を無効化できるんだ。でも転移はムリだろうな。それに心話も弱い気がする。

心に映ったのは夕闇迫る湖。足元が揺れてる。漁師さんに借りた小舟に乗ってるのか。湖までは入れるけど…これって頭痛かな。げ、同調してこっちの気分まで悪くなってきた。

見えない使い魔を放って結界を探ろうと…うわ、砕けた。精神体の一部が潰れるのって痛そう。あちゃあ、舟でうずくまっちゃった。
ここの結界って、けっこうスゴイんだ。

(入るの諦める? あたしが図書室でファラの研究書や日記を探して読むんじゃ、ダメなの?)
(精霊呪の呪文書より遥かに手ごわいですよ。ファラ様の使う文字は独特で複雑ですから)

まったく、いくらビミョーでフクザツな概念を書き表すためだからって、文字を勝手に作る神経って解らない。伝えるための道具なんだから、他人が読めなきゃ意味ないっての。

全ての文字を覚えるのに人が半生を費やさなきゃならないなんてバカげてる。しかも、太守ごとに微妙に…時にはまったく違うなんて。旧字って使い勝手わるすぎ。

まぁ、人が使うためじゃなくて、無限に時間があると思い込んでた吸血鬼どもが作った字だからしょうがないか。きっと、知識を独占するためにワザと難しくしたんだろうな。

(たった1人が書いた資料でも一万年分となれば大量なはず。いくらティアさんでも意味が分からない文字を大量に丸暗記できないでしょう)
そりゃ、さすがにムリだけどさ。

(ティアさんの目を私に使わせてもらえれば何とか…)
(それは、嫌)
心を一部でも明け渡して、体を勝手に使わせるなんて冗談じゃない。

(で、どうする?)
(裏口を試してみます。始原の島の北の対岸。ホワイトロック領…湖岸にあるヴァエルの冬城の地下通路は、まだ通じているそうですから)

そんな道があったんだ。そっか、バックスが脱出したのは北に通じている地下道。
(って、今のホワイトロック領は厳冬期じゃない?)
(そうですね)
まったく、高い山だの雪原だの。寒さを感じないヤツはこれだから。

(すそが長い毛皮のコート、買ってよね。厚くてもこもこの上等なヤツ。古着でいいから。アースリングを祭壇に隠したら、適当にフケるつもりだけど、多分2~3日はかかるから、その間に絶対に用意しといて。ドルクの分もね)

物見高い連中も、3日騒げば疲れるはず。ううん、きっと2日で飽きる。顔見て握手して作り笑いで質問に答えておけば、みんな気がすんで、あたしは日常の一部になるはず。ヤジ馬たちも別にヒマしてるわけじゃない。日々の勤めがある。

さて、さすがに大きい方でも時間がかかりすぎか。便秘や、ぢと思われるのもシャクだし。
水を手に取り、髪を手ぐしで整え、笑顔を作る。

「久しぶりだねい。ティア」
出会いがしらにモリス高司祭のウサんくさい笑顔にぶつかって、顔が引きつった。他のヤジ馬たちは追い払われてた。

「メンター師は、忙しいから会えない。すまないって謝ってた」
まぁ、顔を合わせたところで、あたしも何を話していいのかわかんない。先生にはウソつきたくない。でもウソをつかなきゃなんない。

「伝言だ。シリルの件はありがとう」
「解ってる。あの人形劇やらせたの、メンター先生でしょ」
モリスの、まだらなヒゲにおおわれた口元がゆがむ。
「あと、なすべき事が終わったら、かえっておいで。だとさ」

なすべきことね。
モルをブチ殺すことかな。

吸血鬼の武器職人が言ってた、剣で殺せるが殺せない。世界を滅ぼさねば滅びない。その意味を突き止めて、あいつを完全に消滅させたら…ここで落ち着くのも悪くないかな。


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