忍者ブログ
吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
| 管理画面 | 新規投稿 | コメント管理 |
ブログ内検索
最新コメント
[09/13 弓月]
[11/12 yocc]
[09/28 ソーヤ☆]
[09/07 ぶるぅ]
[09/06 ぶるぅ]
web拍手or一言ボタン
拍手と書きつつ無音ですが。
むしろこう書くべき?
バーコード
カウンター
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
プロフィール
HN:
久史都子
性別:
女性
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

このままでは…私は滅ぶ。

だが、バックスが背負う数万の命に比べれば、私が支えているのはドルクのみ。弱く小さな者が、強く大きな者の為に犠牲となる。それが世界の決め事なら、結果を静かに受け入れるべきなのだろう。

とおに視界は闇に閉ざされ、痛みもほとんど感じない。殴り刺し続けているバックスの高笑いも、遠くかすかだ。ふと、アレフは星空にかこまれているのに気付いた。見知らぬ配置の星々はまばらで、星雲からはぐれたように寂しい。

血が止まりかけた脳が見せる幻覚にしては味気ない。別に花園や明るい浜辺、光の通り道といった生身の者達が最期に見る美しい光景を期待していたわけではないが…いや、違う。脈がなく窒息とも無縁な死人の脳が幻覚など紡ぐはずがない。

(再びしもべを見捨て死の眠りに逃げるおつもりですか!)
赤い星が叫ぶ。
(イヴリン?)
意識したとたん、指が白くなるほどに水晶球を握りしめた、海老茶色のドレスの婦人が、眉を逆立てている光景が浮かび上がった。

これら光のまたたきは、星ではなく人の心?
事情も知らないまま、胸騒ぎをおぼえ、心話をおくる東大陸の代理人たち。今まで通り過ぎてきた街道にそって輝く者達の、無事を祈る想い。私より甥を案じる者もいるが。

「ヴァンパイアは個人じゃないんだとさ。心を共有する人の集合体。強い魔力を得るための仕掛けだなんて小難しいことばっか言ってたっけ」
「群れて島を作るサンゴじゃあるまいし。ルーシャの説が正しいなら、あたしも島を作る砂の一粒ってわけ」
これは誰の意識だ? 正気を取り戻したダイアナか。

(人の命を数で考えるなど無神経の極みですが…数十万、いえ百万以上の民に対する責任の一端はまだお持ちのはず。彼らを中央大陸の様な混乱の中に置いて逝くおつもりですか)

焼け落ちる街。生きながら火に焼かれる老人や病人の悲鳴。暴行される女。家畜のように売り買いされる子供。人が人に狩られ奪われるのを防ぐために、めぐらされた強固な壁。

(私たちは弱い。たった十数名のテンプルの者を止められず、主城を落とされ同僚を殺され、王が滅ぼされるのを見ているしかないほどに。そんな弱い私たちを見捨ててゆかれるか)

弱いというなら私も弱い。テンプル流の格闘術を習ったところで、付け焼刃にすぎない。見よう見まねの攻撃呪も1度に行使できる力が限られていては…私にはこれが精一杯だ。

(同じ事をなさればいい。バックスと同じ事を。いえ、ダイアナとかいうテンプルの女にした事を。しもべから力を集めれば、瀕死の者を死のふちから呼び戻し、山をも動かせるはず。それに、私たちは滅びません。生身ですから)

その力でバックスを滅ぼせというのか。
キニルで会ったシャルが共に滅ぶのは、いい気味と思わなくもない。だが光点の中に別の不死者…ビアトリスの気配は無い。彼女はイモータルリングをつけなかったのか。代わりに夫の気配を感じた。お守りだという口上を信じて妻が渡した指輪を、大切にはめたケリーは生身のまま。

ここで、呪いを、悲劇の拡大を止める。
ケリーを、まだ転化していない森の大陸の者たちを守る、唯一の選択。

それが数万の人を殺す事だと。モルの、そしてテンプルの蛮行と同じなのだと承知している。私が40年前に受けた深い心の傷を大勢に与えるのだと、残された者達から正気を奪いかねないと、分かった上で…
 始祖を、バックスを滅ぼす。

破壊のために、大量に人を殺す力を得るために、光点に触れ、助けを乞う。心を繋ぎ、幾つもの魂の根源から力を引き出す。渦となって集まる魔力が身の内にあふれた。

体が復元する感覚。これは…ティアの治癒呪。分けた力を仲間の回復に回したのか。
目を開くと、悪態をつくバックスの顔があった。刺された頬が銀の矢じりを抜かれると同時に、きれいに治癒するのがわかった。

「刺しても殴ってもすぐに元通りでは、何をしても空しいか。だが、これが始祖同士の戦いというものらしい」
風を呼び、バックスを弾き飛ばした。

互いに不死では、刺そうが潰そうが焼こうが、全てがムダ。それでも、ティアやドルク、そしてテオから目をそらすために、バックスに挑む。

手甲で打ち、蹴り上げる。生身の者より強靭な肉がつぶれ、骨が砕ける。だが、すぐに復元する。床に倒れ伏しても、即座に起き上がり、足を払いあう。

幸いなことに、バックスの拳術の腕前は、私よりすこし上手い程度。互いに捨て身でやりあうなら、余分な肉がついてない分、早く動ける私の方に分がある。拳の威力や蹴りの重さは、すぐに治癒するなら、関係ない。

バックスに加勢しようとする気配を、ドルクとテオが切り伏せるのを感じた。一定以上の傷を受けると、バックスのしもべ達は力を始祖に奪われ灰化する。これで4対2…すぐに4対1となった。瀕死のしもべの心臓を、ティアがスタッフで打ち抜いた。

「戦いながら幼児のごくと泣くか、惰弱《だじゃく》者め」
「お前のための涙じゃない」
お前が転化させた者たちへの血の涙。滅びの周囲に広がる悲しみと怒り。そして安堵してしまう後悔に傷つく者達への涙。殺す者の偽善だと、奪う者の傲慢だと、非難されてもかまわない。

ドルクの斧がバックスの右脇に食い込む。
テオの大剣が左脇腹からバックスの胸部をつぶす。抜かなければ、異物が体内にあるかぎり、治癒は起きない。そして足元に浮かび上がる鮮やかな光の方陣。

動揺したバックスの首を、手甲の爪で刺しつらぬいた。
「アレフ、離れて!」
ティアの警告に従って、手甲の留め金とベルトを断ち、金属の異物をバックスの首に残したまま、高く跳び離れた。天井すれすれで身を反転させた時、眼下に光に包まれ消滅していく赤い姿が見えた。左右には逃すまいと刃を打ち込んだままのテオとドルク。

断末魔の叫びの残響に、共に消滅していく多くの命が重なる。灰も残さず消える始祖。ファラも、父も、こうだったのだろうか。そして、いずれは私も。

幻聴の様に残る、悲嘆。
ハラワタをかきまわされ、引きちぎられるような熱い哀しみ。これは眼前で妻に逝かれた駅番のケリー…もう1人の私の悲しみ。

事情の説明を、私の居所をふくむ詳しい状況を問う、しもべたちの心話を締め出し、ケリーの悲嘆にのみ意識を傾ける。

私には十万以上の悲しみを我がことの様に受け止める度量は無い。想像すらできない。理解できるのは個人的な1つの深い悲しみ。犯した大罪の証として、悲しみと憎しみが心を切り裂くままにする。

世界を変える光をもたらしたと誇らかに胸をはり、君臨するテンプル。編み出した術や己が本拠に、聖《ホーリー》などという美名を被せようと、彼らも大量殺戮者だ。悲しみを増やす者ども。本質的には私やバックスと同じ人殺し。許されざる存在。

不死者が永らえるために血を啜るように、絶えず死と破壊を求める集団。正義だの英雄だのと世迷いごとを繰り返し、人を幻想でいつわり利益をちらつかせて言いなりにするやり口を含め、どこが違う。

本当に悲劇を止めたいなら、根本を叩かねばならない。憂いをぬぐうなら、始祖にあたる源を滅ぼさねばならない。

テンプルの源にあたるものとは何なのか。
嘆きに追い立てられるように思索を深めていった。

一つ戻る  次へ

拍手[0回]

PR
この記事にコメントする
NAME:
TITLE:
MAIL:
URL:
COMMENT:
PASS: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
≪ Back  │HOME│  Next ≫

[207] [208] [209] [210] [211] [212] [213] [214] [215] [216] [217]

Copyright c 夜に紅い血の痕を。。All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog / Material By Mako's / Template by カキゴオリ☆
忍者ブログ [PR]