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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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後ろの若い魔法士が気になって、パーシーはいく度か振り返った。占いや治療のワザをタネに、手妻で人を引きつけ口先で揺さぶり日銭を稼ぐ漂泊の民…にしては卑しさがない。むしろおっとりした学者や司祭のようだ。

「何やら手帳に書き付けてブツブツ言ってるが…あんなので魔法士が務まるのかね」
村人の名でも暗記しているのかと思ったが、違うようだ。位相がどうの変容の数値がどうと…目の前の現実ではなく思考の遊戯に没頭している。

「あの顔でしょ。女受けがイイのよ。それに話術はソコソコでも、精霊を使った手妻はなかなかのモン。それで引き抜いたんだから」
「ほう、火炎呪で魔物を退けたりするのかい」
水晶球を出して見つめ、あやうく糸杉にぶつかりかけている様を見る限り、荒事となったら足を引っ張る部類に見える。

「それが全然つかえないの。なりそこないが可哀想だとか言って…あ、なりそこないってのは不完全な不死者ね。そりゃ、相手は知り合いかもしんないけど、テメーも危ない時に、どうかと思ったわ」

それはむしろ好ましく思える。このテンプルの小娘は、教会の地下に吸血鬼をかくまっていると知ったら、委細構わず浄化にかかるのだろうか。

「それで、モル司祭は?」
彼の到着は苦しみの終わり。喪失の時。そして教会のくびきに繋がれる未来の始まりだ。
「ウェンズミートから銀を貼った船で出たみたいだけど、あたしは別ルートで来ちゃったから分かんないの。ごめんね」

「こちらに? 東大陸ではなく?」
これは意地悪な質問だ。この娘がどれくらいテンプルの中枢に近い者か、これで推し量れる。

討伐に失敗した連中は、スフィーから来た。かれらは噛まれた者たちの言うことを信じなかった。戦う相手の正体も実力も見誤ったまま“アレフの闇の子”に挑み…白ヒゲの始祖と取り巻きが使うテンプルの呪法に敗れた。

人形劇と現実の区別がつかぬ、子供らに等しい頑迷さと単純さ。一つの思想にこり固まり特権にひたり、テンプルという狭い世界での出世にのみ心を砕いていると、人はああまで退化するものなのか。

「東大陸?」
「以前きた司祭様は、諸悪の根源は海の彼方、東大陸で少し前に目覚めたアレフだと」
その前は諸悪の根源をロブだと言っていた。だが、ロバート・ウェゲナーがモルの手によって滅びたとの知らせが、狼煙とハトによって届いても、吸血鬼は存在し続けた。

いいだろう。全ての邪悪の源が東大陸にいるとしよう。なら40年間眠り続けていた始祖が、いつ闇の子を作ったというのだ。
2ヶ月足らずで、どうやってシリルまで来れたか説明して欲しい。

唯一の手段は、バフルから船でシルウィアか南のドラゴンズマウント領に渡ること。だが東大陸と森の大陸との通交を一切禁じたのはスフィーとシルウィアの教会だ。密かに船を仕立てたとしても、外洋船の残骸すら見当たらないのはなぜだ。森の大陸の漁師は働き者だ。漁場としない海岸などない。

「バッカじゃないの。ウェゲナー家は闇の子なんか作らないわよ。人が担う役職が世襲になるのも嫌ってんのよ。水は淀むと腐るとか言って、まったく臆病で小心なんだから」
テンプルからきたティアとかいう娘を少し見直した。

「それは、厳しい気候とやせた土地だけでも困苦の極みだというのに、上に立つものが腐敗し不正に貪れば多くの人死にが出る…せいだと聞いたが」
尻すぼみになる的外れの反論は、存在を忘れかけていた魔法士のもの。アラン・ファレルという名は中央大陸風だが、髪の色からすると、東大陸の出身なのだろうか。恥ずかしそうにまた、うつむいてしまった。

「では、ティア聖女見習い。今シリルを…ウッドランドを蝕んでいる死の病の根源は何だと?」
40年前から現れだした新規の魔物と同じく、テンプルが作ったものなのか。
「さあ?ファラが作った賢者の石をガメた、バカどもでしょ」
さすがに名指しでは答えないか。だがティアは知っている気がした。

「それより、どうして森の貴婦人の加護を受けているはずのシリルで、これほどの被害が出たの?」
「牛と羊を飼うために、森を少し切り開いたせいかな。この村を囲む丸太は、そのときに切り出したものだ。娘を切り倒したせいで、彼女たちの怒りを買ったのもかもしれん」

20年前、森の太守が滅ぼされ、様々な制約から解き放たれた後、森に甘え傷つけ奪い…知らず知らずのうちに、ドライアドの恨みを買っていたのだろう。でなければ大切な亡き主の城に、新参者を受け入れたりはしないだろう。

「ここが、我が家だ」
いつしかブナを植えた家の前にさしかかっていた。ニワトリが石をついばみ、菜園のハーブにチョウが舞う…またイモムシ取りをしなくてはならんらしい。

見ると、通いで家事をしてくれているアニーが、荒れた手を揉みながら、玄関でこちらを見ていた。よそ者がいる場で話してもいいのかどうか迷う風情だ。

「お客様だ。ベッドを3つ、用意してくれんか」
「パーシーさん、さっきまでテオが待ってたんですよ。深刻な顔で走ってきて。でも、また駆け出していきました」
「テオが…何か伝言は」
だまって首をふるアニーと共に、家に入った。

外が明るいせいか、一瞬闇に見える。やがて広いテーブルに残されたティーカップと、ソバ粉を水と蜜で練った焼き菓子が目に入った。食いしん坊のテオが茶菓子に手をつけないとは、よほどの事があったらしい。

時折、集会も開かれる広い居間に客人を迎え、テオが残していったものを片付けて、イスを勧める。

新たな黒茶を入れるために、アニーが引いておいてくれた黒い粉末を計ろうとした時、あわただしい足音がした。
鎧にぬい込んだ金属と武器のぶつかり合う音。自警団のハーシュか。

「テオのヤツが城に行くと森へ走って行きました。もう我慢できないって。理由を聞いたんですが…その、タックさんがやられたって。あいつ、小さい頃から伯母さんに懐いてたから」

「分かった。アースラのところへは私が行く。
すみません、お客人。どうやらゆっくりお相手できそうにない。アニー、私の代わりにお茶を立ててくれ」

なぜだ。魔よけを施した家からは、近ごろ犠牲者は出ていなかった。魔物が力を増しているのだろうか。
まずは事実を確認して、対策を練る。そして人々に正しく伝え、混乱を防ぐ。熱い1日になりそうだった。

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