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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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係留作業を終えた水夫たちをねぎらい、積荷を運び出す人足たちを船尾楼甲板からグレッグが見守っていた時、妙にニヤついた甲板長が上がってきた。
「船長、ちょっとバカバカしい思いつきなんですが、あの一等船室のお客って…」
「さあなぁ。その話は今回の分を清算して、次の荷と客を積んで、モヤイを解いて外海に出たときにしようや。口封じしたくてもあいつが絶対に追ってこれない安全な場所でな」

「なんだ」
悔しそうなカルロの頭を軽く小突く。こいつのカンの良さや学のあるところを買って甲板長に抜擢した。しかし、噂好きなのが欠点だ。まだまだ後は任せられん。
「まぁ、ヤブ治療士も、ティア聖女にカマかけてたみたいですしね」
なら、料理を食ってくれなかったウラミでジェフも色々邪推しとるんだろうな。

「で、ティアちゃんもグルかい?」
「いいえ。風邪ッ引きの首のニキビをしつこく気にしてたそうですよ。本当にそんなモノが乗っててあの娘も仲間だったら話を逸らそうとするはずなのに、全く逆の反応だったそうです」
甲板長がつまらなそうな顔でため息をつく。

「客や船員がどんどん消えて、最後はたった1人、黒衣の客を乗せたまま岸に突っ込むグースエッグ号か?話としては面白いがな」
昔の怪談そのままの悪夢にうなされ飛び起きた今朝まで、あの客の事を疑ってなかったってのは、黙っておいた方がいいな。船長のケンイってヤツが地に落ちる。

「そのオチいいですね。もらって良いですか」
甲板長は本当に思いつきで話しとったようだ。
「笑われんよう、ほどほどにな」
混乱期に船乗りの間でもてはやされた怪談も、その元になったケレス号の惨劇も、イマドキの若いもんは知らなくて当然か。

真実はどうあれ、もう終わったことだ。
目の前にいない魔物の事より、昼飯になにを食うか考る方がよっぽど有意義というもんだ。久しぶりの陸《おか》だ。肉に野菜、果物にクリーム、よりどりみどり。川魚を食ってみるのもいい。アカスジ魚のバター焼きと白ワインがありゃ最高だ。

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