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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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女性
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「ウリシアダが、乙女や幼児をドラゴンに食わせてたってのは…教会のウソだよねぇ」
「さぁ?愛犬や愛猫に自分と同じ物を食べさせたがる人は、多いみたいですが」

メニエ村のはずれ、寒風が草をなでる丘の上に繋いだのは、毛長牛の若いメス2頭。褐色のカタマリが身を寄せるのは、夜風の冷たさだけではあるまい。周囲に振りまいたカリブーの血と臓物の匂いにおびえている。生臭い風が呼び寄せる牙ネコや、空をよぎる影がもたらす死を、予感しているのだろう。

「へえ、あたしがおかわりした毛長牛の煮込みの方が、美味しそうに見えたんだ。あんたがタブらかした赤いほっぺの娘より」
アレフは溜息をついてみせた。ティアが怯むと思ったわけではないが…何も新しくしもべとなった者をおとしめなくても。
まさか嫉妬か?

「草の図形は、何か意味があるの?」
身を隠している布一枚の簡素な天幕をおおう草を風精に刈らせた時、丘全体を結界に包む円の他に、春の土色を意味する文字を書かせた。
「オークル…生き残ったといわれるドラゴンの名です」
40年前はまだ幼獣だった。戦いにかり出さなかったのは一番若かったからかも知れない。

「もうすぐ来る?」
この丘で見つけたのは、アザラシの骨。牙ネコの歯形も刻まれていたが、毛長牛より重い海獣をここまで運んだのは、もっと大きな生き物のはず。だが、すっかり干からびて新鮮とはいえなかった。

「オークルのナワバリはかなり広いようです。数日以内に姿を現す保障は無い。アザラシの繁殖期は過ぎているし、海岸を離れているかもしれない」
「なんだツマンない。宿で休んでるから来たら心話で呼んで」
アクビしながら、茂みに偽装した天幕をティアが出て行く。

「牙ネコが待ち伏せていると厄介だから」
「分かっております」
護衛としてドルクがついていく。丘を下る2つの影を見送ってホッとした。

重い体と長大な牙のせいか、牙ネコは言われているほど危険ではない。中型の肉食獣から獲物を横取りするのが得意な死肉食いだ。それでも人間が1人で対抗するのは厳しい。だが、2人以上なら牙ネコの方が避けてくれる。

それにドラゴンは夜行性というわけではない。私が見張る事が出来ない昼間は、あの2人に任せるしかない。今のうちに休息をとってもらうほうが助かる。

(召喚の方陣かと思った。異界から呼び寄せるより楽でしょ。同じ世界にいるんだし)
ティアからの心話。その手もあったか。だが、こちらの都合で強引に喚んだら機嫌を損ねそうだ。だいいち触媒もなしに人より大きな生き物を転移できるだろうか。知能と魔力も高い。抵抗される気がする。

でも…方陣を少し変えて、心話を送ってみるぐらいは、してもいいか。応えるかどうかはオークル次第。

水晶球を通じてケアーに接触し、オークルの個体としての特徴を確かめた。草に溜まったカリブーの血を爪につけ、手帳に小さな方陣を描き上げる。

紙片を破りとり、掲げ、真名を呼ぶ。
たいして期待しないまま、応えを待った。
星がじりじりと空をめぐる。

ふと、指に挟んだ紙が震えるのを感じた。耳を澄ませると甲高い声のようなものが、紙から生じている。
「ダレ?ドコカラ呼ンデル?」
繋がった。

(私はアルフレッド・ウェゲナー。11番目の血の盟主)
「東大陸カラ、呼ンデルノ?」
(いや、森の大陸。ドラゴンズマウント領の海辺。メニエの)
オークルの困惑を感じて悩んだ。人が勝手に土地につけた名など、ドラゴンには分からない。

頭の中に地図を描いた。
(春先、海の氷がゆるむころ、アザラシがたくさん上がってくる岩場を覚えているか。大きく切れ込んだ5つの海岸の北。オークルの足に似た半島の近く。丘の上だ。…近くに居るなら、おいで。毛長牛を2頭、用意して待っている)

ドルクを呼び戻そうかと迷ううちに、毛長牛が哀しげに鳴いた。頭上を影がよぎる。
海からの照り返しにビロードのような皮翼を輝かせて、次第に高度を下げてくる土色のドラゴン。

外洋船よりは小さいが、馬車や家よりはるかに大きい。こんなものが羽ばたきだけで飛べるハズはない。オークルが空を自在に舞えるのは、体内に御座船を浮かべている力と同じものを持っているからだと聞いた。

まるで羽毛が落ちるように、優雅に着地する。土けむりも衝撃もない。爪は長いが体に比して細い足。身軽に歩く姿は鳥に似る。ただ、畳まれた翼の他に、前肢がもう一対あるあたりに、造られた生物らしい変則ぶりがかいま見えた。

「毛玉ノホカに角ツキノ匂イモスル」
尖った口吻の根元に開いた鼻腔が、ヒクついている。
「残念だが、カリブーの肉はないんだ」
血と臓物を分けてもらった家の庭先で、太いモモや脂の乗ったバラ肉は塩をすり込まれ…今頃、燻製小屋にぶら下がっているはずだ。

「カリブーの方が好きなのか?」
「若イ毛玉モ好キ」
口を開けずに話している。発声器は喉や口ではないらしい。
居すくんだ毛長牛を、縦長の金色の眼がねめつける。無造作に首に食らいついて地面に叩きつけたあと、腹を爪で裂いて首を突っ込む。引きずり出したハラワタの量からすると、羊くらい丸呑みにしそうだ。

綱を切って暴走しようとする、もう1頭の影を踏んで金縛りにしてから、オークルにゆっくりと近づく。足と腹を被う艶やかなウロコ。背中と翼を保護する柔毛。金の飾り毛が美しいうねる尾。

寿命は人の倍程度と短いが、肉を持つ眷族の中で、もっとも力強く美しいもの。
毛長牛の骨を噛み砕き、皮を引き裂き、硬質の顔を赤く染めて夢中で食らう姿を見ているうちに、哀しくなった。

「この世にたった1頭のドラゴン…。オークルは寂しいと思ったことはないか?」
返事は無い。聞いていないのかもしれない。

「私は寂しいよ。同族がどこかにまだ生き残っていないか、世界中を旅して、こんなところまで来てしまうぐらいに。でも、仲間がいたはずの城は全部廃墟だった。見つかるのは遺言ばかりだ」
物言わぬ犬猫に告白するように、言葉が口からあふれ出る。
残った毛長牛に襲い掛かる背中を見上げる。タテガミに埋まっているのは首輪…それとも鞍だろうか。

「いや…1人だけ、この近くで仲間を見つけた。なのに私は彼を滅ぼしてしまった。やっと見つけた同族だったのに。何をやっているんだろうね。また、1人になってしまった」
オークルの体は温かい。尾がひっかけた枯れ草を取り、筋肉がうねる足をなでてみた。毛長牛を引き裂く前肢の器用さにしばしみとれた。

「ファラ様に造られたという意味では、この世で私に一番近しい存在はお前かも知れないね」
毛長牛を残骸に変えたオークルが、昇って来た月に向かって鳴いた。木の笛が奏でるような温かい咆哮。訂正、喉にも発声器官はあったようだ。

「仲間、イルヨ」
「他にもドラゴンが?」
オークルがかぶりを振る。単に顔についた汚れを飛ばしているだけだろうか。

「違ウ」
「いる?私と同じような者を知っているというのか」
喜びかけて…戒める。ドラゴンに人間と死人の区別が果たしてつくだろうか。
「まさか。空から見ているだけでは、人との区別も出来ないだろう」

「影ノ無イ男」
「私の様に足元に影を持た無い男がいるのか?」
オークルが胸を地面にすりつける。
「乗ッテ。今カラナラ朝ガ来ル前ニ、会エル」

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