忍者ブログ
吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
| 管理画面 | 新規投稿 | コメント管理 |
ブログ内検索
最新コメント
[09/13 弓月]
[11/12 yocc]
[09/28 ソーヤ☆]
[09/07 ぶるぅ]
[09/06 ぶるぅ]
web拍手or一言ボタン
拍手と書きつつ無音ですが。
むしろこう書くべき?
バーコード
カウンター
カレンダー
03 2024/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
プロフィール
HN:
久史都子
性別:
女性
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

陽を吸い込んだ半乾きの積み草は柔らかいが不安定だ。パーシーは落ち着かない気分のまま、ティアの話を聞いていた。

「子供の頃、親父を喜ばせたくて、上がるなって言われてた2階に行こうとして、ブン殴られた。
お手伝いしようとしただけなのに。手加減まったくナシ。ホウキ持ったまま階段を転がり落ちた」

ティアが金茶色の髪の毛を分けて、頭を傾ける。
「ココにまだキズが残ってる。2階は親父にとって特別な場所。大事なご主人様の部屋があったから。親父は実の娘より、アレフの方が大切なんだって思い知って…悔しくて泣いて恨んだ」

ティアが見つめる先に、丸く刈り込んだ茶樹とタックの家がある。中で行われている事を思うとパーシーも厳しい目を向けたくなる。

「親父の大切なアレフを滅ぼしてやりたくて、家を飛び出してテンプルまでいった。副司教長さんに直談判して選抜試験受けた。嫉妬ってスゴいよね、一発で受かっちゃった」
ため息をついた唇が皮肉そうに歪む。

「親父を独り占めしたかったんだと思う。妹か弟がいたら、きっとイジワルなお姉ちゃんになってたな」
キッカケはともかく、アレフに強い感情を抱いたティアは、正しく代理人の娘なのだろう。好悪はともかく。

「モル司祭が東大陸のヴァンパイアを滅ぼしに行くって聞いたとき、志願したの。嫌われてたけどダメもとで。そしたら連れてってくれた。でも船でクインポートについたとき…」
ティアの声が低い。

「モル司祭が町のみんなを焚きつけて父さんを嬲り殺しにした。止めようとした私もヴァンパイアの手先だって決めつけて縛って閉じ込めて処刑しとけって…今から思うとそれが狙いだったのかな。メンター先生から弟子を引き離して始末したかったんだよね」
派閥争いか。大きな組織は厄介で怖い。

「モルはバフルのヴァンパイアを滅ぼした。そして、あたしが滅ぼすハズだったアレフの城に向かう直前に……幸いというか不幸っていうか、この村の騒ぎがモルをホーリーテンプルに呼び戻したけど」
作為を感じないでもないが、問いただしても答えないだろう。

「偶然難を逃れた、悪運だけ、が強いアレフが、忠誠を尽くしてくれた代理人の娘っていう理由で、あたしを助けてくれた」
テンプルの聖女と吸血鬼が一緒にいる理由はわかった。それにしても明け透けな娘だ。

「一応、命の恩人だし。命には命で返さなきゃって思って、護衛としてついてく事にしたんだけど。もう信じらンない世間知らずなのよ。コブシの握り方もケンカの駆引きも知らないなんて、ワケわかんない」
突き出した愛らしいコブシには、不似合いなタコがあった。

「あれで何百年も生きてきたなんて奇跡よね。試しに素手で手合わせしたら、勝てちゃったし。こんな奴を滅ぼすために全てをかけて修業してたのかと思うと、何かバカらしくなった」
向けてきた笑顔は、母親の様に温かく見えた。

「でも無能じゃないよ。長生きしてるぶん物知りだから。魔法のこと質問してあげると答えてくれるし。それも楽しそうに。
それで、ラスティルって聖女が考え出した、ヴァンパイアの血を触媒に使う解呪が可能かどうか聞いたら、色々教えてくれた。だから、解呪は出来るよ」

「アースラは助かると?」
「今すぐはムリ。でも数ヵ月後には多分。あのバカがモルに滅ぼされちゃったら、何もしなくても解けちゃうけど」
今なら、聞きたい事をある程度、答えてくれそうだ

「逃げて、いるのか」
「追ってるのよ。カタキ討とうと思って…追い抜いちゃったけど」
「だが、シリルの吸血鬼が退治されたと知ったら、もうココへは」
この村と森を争いの場にはされたくない。昨夜、森が受けた痛手の全容もまだ分からないというのに。

「来ないよねぇ、やっぱ。それに森の城にいるとドンドン落ち込んでオカシくなってく。温室でぼんやり朝まで立ってるし、変な形の実を握りしめて、青い指輪をイチジクにもらったとか言い出すし」
青い指輪…グリエラスが闇の女王から拝領したとかいうアースリングだろうか。

「灰の中から見つけたカギをテオに渡して、捕まってる人を救助させてるスキに、“食事”していいよ、今だけ目をつぶるからって言ってあげたのに…残飯あさりは嫌だ、なんてワガママぬかすし。どうしてもシリルへ戻るってきかないし」

「彼はアースラに執着しているのか」
「呪いを広げたくないからだって。近づく者がいたら引き止めてくれって頼まれたから、こうしてお話してるけど…正体バラすなとは言われてないんだよねぇ」
意地悪そうな視線の先に、タックの家から出てくる黒い姿と、慌てたように駆け寄るヒゲの男が見えた。

「それにパーシーさん、最初から分かってたでしょ」
「若い頃、会ったことがあるからね。私のほうは歳をとって、すっかり面変わりしてしまったが」
「どうする? 自警団の人たち呼んで、とっちめる?」
パーシーはだまって首を横に振った。

ティアが立ち上がり、軽く草の切れ端をはらう。一緒に立ち上がり、駆け寄っていく灰色の背をゆっくりと追った。

歩いてくる3人を改めて見て、ティアの存在が抜きん出ているのを強く感じた。昨日はティアを目くらましだと思っていた。吸血鬼の魔力に捕らわれた哀れな娘だと。だが、間違いだ。魅きつけられとりこにされたのは、娘を見守る黒衣の魔物のほう。

記憶の底から子供の頃聞いた話が浮かんできた。そして失われかけた夢。
「明けない夜はない」
背筋を伸ばす。向こうが一介の旅人に徹するなら、無意味に恐れる必要はない。

「これはパーシーさん、お散歩ですか」
ヒゲのダーモッドが当り障りのない笑みを浮かべて先に声をかけてくる。世慣れ交渉に長けた大人の態度。彼が交渉役を引き受けているのは察していた。ティアは率直すぎる。そして彼女の評価が正しいならアレフはとんでもなく世間知らずだ。

「いえ、あなた方を探していたんです。折り入って頼みたい事がありましてね」
こちらとしてもやりやすい。
「…わたくし共でお役に立てる事なら」
声に警戒した響きがにじむ。

「シルウィアからバフル行きの定期船が出ていた頃は、シリルにも人がたくさん出入りしてました。宿屋も繁盛してた。あの頃の賑わいを取り戻したい。いや、出来れば昔以上に」
ヒゲ男の目をまっすぐ覗き込む。

「旅慣れているあなた方に、バフルにいってもらって、教会に逆らって貿易を再開する意志があるかどうか聞いてきてほしいんですよ」
一瞬固まったヒゲ男の視線が落ち着かなく動く。
「確かバフルを治めていたご城主は…」
「滅ぼされたそうで。交渉するなら息子さんとなりますか」

目の隅に声を殺して笑っているティアが見える。アレフは超然と見守っている。少し見直した。まさか状況が分かってない訳ではあるまい。

「一介の旅人に会ってくれますかね」
トボけると決めたらしい。
「必ず…、と思いますよ。信頼できる筋から人となりは聞かせてもらいましたから」
ティアをちらりと見たヒゲ男が大きくため息をつく。

「どうしましょうか?」
覚悟を決めたようにヒゲ男が黒衣の青年を見る。
「お引き受けしましょう。多分この村の黒茶には興味を持たれると思いますよ」
落ち着いた声と微笑。一介の旅人としての物言いに徹している。

「ありがとうございます。
ところでアースリングとルナリング、昔、闇の女王が二つの大陸の融和を願って下賜したといわれる賢者の石。元は一つの石だとか」
青年が握りしめた指には、黄色い石がはまった古い指輪。
「森のご領主が言っておられました。『2つの石はどんな結界をも超えて引き合う』…お役にたちますか?」

座して滅ぼされるより、仇討ちを…ささやかでも反撃を選ぶなら、いずれ結界を越えてホーリーテンプルへいく時も来るだろう。
早いほうがいい。
魔物は時がたつほど力を増す。利息で増える借財のように。

一つ戻る  次へ

拍手[1回]

PR
この記事にコメントする
NAME:
TITLE:
MAIL:
URL:
COMMENT:
PASS: Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
≪ Back  │HOME│  Next ≫

[210] [211] [212] [213] [214] [215] [216] [217] [218] [219] [220]

Copyright c 夜に紅い血の痕を。。All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog / Material By Mako's / Template by カキゴオリ☆
忍者ブログ [PR]