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吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。 ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。 最後に目覚めた不死者が直面する 過渡期の世界
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久史都子
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北の都バフルから、貿易港として栄えるクインポートを経由して、東海岸沿いに散らばる町や村を繋いで伸びるグラスロード。西部も中央部も荒地と砂漠に占められている東大陸で、緑と人里があるのは、何百年も昔に整備されたこの街道沿いだけだった。
昔は…

街道の南の始点だったカウル直近の駅は、厩(うまや)の数が増えただけでなく、倉庫が増設され砦の様になっていた。新しい道がさらに南へと伸び、宵闇の中を乗合馬車が近づいてくるのが見える。屋根には荷物だけでなく乗客も2人ばかり上がっている様だ。

何もかもが新しく変わっていく駅で、この貴賓室だけが時代に取り残され、古びていた。
カギを探すために管理業務総則を繰っていた駅長の様子を見る限り、この40年間、プラットフォームの鉄柵は開けられたことはなく、部屋どころか階段に足を踏み入れた者もいなかった様だ。

「緑が増えたな」
「アレフ様が天候の管理をやめてしまわれたので、ロバート様が入植者を募って植林させたんですよ。井戸が枯れては、羊も領民も干上がってしまいますから」
家具にかけられたホコリよけの布を取り払いながら、ドルクがやんわりと皮肉で返す。

「よく金があったな。確か植林を条件に入植した者からは税を取らず、育った樹木の本数に応じて報奨金を与えるということになってなかったか?」
窓から見渡せる範囲でも、小さな城の1つ2つ軽く建ちそうな金が注ぎ込まれている。かつては貧弱な放牧地しかなかった乾いた大地に、森と……並木に囲まれた麦畑が生まれていた。
「眠っておられた間に、色んなことがあったんですよ。今のクインポートをご覧になったら、きっと驚かれますよ」

「驚く…か」
目覚めてからまだ一日。所領のハズなのに見知らぬ異国を旅しているようだった。クインポートの代理人を喪い、迎えの馬車をよこすことができず、駅まで歩かされた不便も、行き先の事情がまったく分からない事も、なぜか不快とは感じなかった。
どこか面白がっているようなドルクの表情を含めて、この状況はむしろ楽しい。
言葉にすれば“新鮮”か。

「こちらにお掛け下さい。馬車の手配に、もう少しかかるでしょう」
振り返ると、花の木彫が施された背もたれに、ドルクが手をかけていた。
「足は疲れてない」
「窓際にずっと立っておられますと、道行く者達が怖がります」
「そう…か」
かつてはクインポート以北の豊かな地域ですら滅多に見られなかった、定員超過の乗合馬車に興味はあったが、乗降客の観察は諦めるしかなさそうだ。

座りかけて、ふと誰かに呼ばれた気がした。城を護る衛士やコウモリ達に意識を飛ばしてみるが、特に異常はない。もっと別の、心話にもならない気配のようなもの。
「…馬車が整うまで無駄に待つぐらいなら、夜通し歩いた方が早くないか?」
「また、ヒトニグサどもが足に絡んで来るかも知れませんよ。それにクインポートは逃げません」
確かに、この程度の遅延など、バフルまでの遠い道程を思えば、気にするほどのものではない。いつしか気配そのものも階下の賑わいに紛れて消えてしまっていた。

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