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    <title>夜に紅い血の痕を</title>
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    <description>吸血鬼を主題にしたオリジナル小説。
ヴァンパイアによる支配が崩壊して40年。
最後に目覚めた不死者が直面する
過渡期の世界</description>
    <dc:language>ja</dc:language>
    <dc:date>2008-12-21T23:18:40+09:00</dc:date>
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    <title>DL(ダウンロード)版のアップロード。そしてブログ(携帯)版の改定予定のお知らせ</title>
    <description>小説『夜に紅い血の痕を』DL(ダウンロード)版

『本編　zip形式』(439KB)　『本編　lzh形式』(472KB)

↑本編という文字にカーソル当てて、ウインドウズエクスプローラーなら右クリックして、対象をファイルに保存。safariならリンク先のファイルをダウンロード。お使いのブラウ...</description>
    <content:encoded><![CDATA[小説『夜に紅い血の痕を』DL(ダウンロード)版<br />
<br />
<a href="http://nayukaaaaa.nomaki.jp/novel/yoruniakaitinoatowo.zip">『本編　zip形式』(439KB)</a>　<a href="http://nayukaaaaa.nomaki.jp/novel/yoruniakaitinoatowo.lzh">『本編　lzh形式』(472KB)</a><br />
<br />
↑本編という文字にカーソル当てて、ウインドウズエクスプローラーなら右クリックして、対象をファイルに保存。safariならリンク先のファイルをダウンロード。お使いのブラウザごとに用語は少し違えど大体は同じかと。<br />
<br />
ダウンロードしたファイルは『+Lhaca』等の解凍ソフトで展開したのち、ビューワーソフトで開いたり、メモリカード介して携帯に移したりして、お読みくださいませ。<br />
<br />
Me以降のウィンドウズならzip形式はそのまま解凍できます。他のOSをお使いで、解凍ソフトは面倒という方のための圧縮前のプレーンテキストはこちらです。<br />
<br />
圧縮前のプレーンテキスト<br />
<a href="http://nayukaaaaa.nomaki.jp/novel/yoruniakaitinoatowo1_5.txt">1～5章(219KB)</a>　<a href="http://nayukaaaaa.nomaki.jp/novel/yoruniakaitinoatowo6_10.txt">6～10章(239KB)</a>　<a href="http://nayukaaaaa.nomaki.jp/novel/yoruniakaitinoatowo11_15.txt">11～15章(273KB)</a>　<a href="http://nayukaaaaa.nomaki.jp/novel/yoruniakaitinoatowo16_17.txt">16～17章(146KB)</a><br />
<br />
内容はzip形式、lzh形式、圧縮前のプレーンテキスト版も全て同じです。<br />
縦書きビューワーソフトの使用を想定しているため、文中の数字は基本的に漢数字、段落ごとの空行も大部分廃止。そのため少し加筆訂正していますが、内容の99%は<a href="http://nayukaaaaa.nomaki.jp/novel/akai_mokuji.html">ネット版(HTML版)</a>のままです。<br />
<br />
テキストビューワーソフトは『窓の中の物語』や『扉～とびら～』といった青空文庫系のソフトでしか動作確認しておりませんので、ルビ等で不具合が出る可能性がございます。<br />
<br />
今後の予定ですが、サイドストーリーやスピンオフの掌編や中篇のプロットを練るかたわら、ブログ版の本文から文頭や『？』『！』の後の空白を削除、三点リーダーを1マスの『…』に変更する等、携帯電話でお読み頂いている方のパケット代の節約に努めてゆく所存でございます。(1/24完了)<br />
<br />
2日ごとに更新していた頃に比べ、実生活での所用が増えたため、変更は遅々としたものになるかと思います。どうかご容赦くださいませ。]]></content:encoded>
    <dc:subject>表紙</dc:subject>
    <dc:date>2008-12-21T23:18:40+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>久史都子</dc:rights>
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    <title>四章SS『メイド・コスプレ、却下のワケ』</title>
    <description>──この短編は「夜に赤い血の痕を」四章 1.トラブルメーカー のサイドストーリーです──

『メイド・コスプレ、却下のワケ』

客たちが慌しく出て行き、薄暗い雑貨屋は貸しきり同然となった。仕方なく店内を見回していたドルクの目が止まったのは、ビンに詰められた優しい色の粒。赤、黄、緑、白…
「...</description>
    <content:encoded><![CDATA[──この短編は「夜に赤い血の痕を」<a href="http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/Entry/51/">四章 1.トラブルメーカー</a> のサイドストーリーです──<br />
<br />
『メイド・コスプレ、却下のワケ』<br />
<br />
客たちが慌しく出て行き、薄暗い雑貨屋は貸しきり同然となった。仕方なく店内を見回していたドルクの目が止まったのは、ビンに詰められた優しい色の粒。赤、黄、緑、白…<br />
「糖蜜星ってんです。飴みたいにべトつかないしカビもふかない。旅のお供にいいですよ」<br />
<br />
頼んだ茶葉の包みをカウンターに置いた店主が、いかにも女の子が喜びそうな砂糖菓子を棚から取り、オマケだとロウ引き紙に包む。値札を見れば買い求めた茶葉の倍の値。<br />
媚びた笑みがぎこちない。<br />
<br />
急ぎの旅の途上。<br />
昼をやり過ごすのに立ち寄った、街道沿いのせまい町。窓を閉め切った箱馬車から降り立ったのが領主アレフ様だと、世界で一番貧しい大陸を封土とする太守だと、とおに知れ渡っているらしい。<br />
<br />
同時にわたくしが吸血鬼の従者であることも。<br />
御者台で姿をさらしていたから、当然か。<br />
<br />
本来、アレフ様の“口づけ”を受けるべき町名主は、留守だった。数日前に首都バフルへ出立したとか。<br />
身代わりを押し付けられたのは、やせた養女。下女同然の扱いを受けていた遠縁の娘。手を付けられずに帰された事も、町中のウワサになっているのだろう。<br />
<br />
お気に召さなかったワケではない。今は血を必要とされていなかっただけのこと。<br />
わたくしも夜通し馬車を操るため眠気覚ましの香茶を求めて、宿と定めた館を出てきたにすぎない。アレフ様の好みに合う贄を見繕いにきたのではない。怯える理由はないと…説明するまでもないか。<br />
<br />
地下に光の入らぬ寝所を備えた館で少しお休みいただいたら、夕方には北へ向かって立つ予定だ。<br />
<br />
考えているうちに、高価な砂糖菓子は黒い上着のポケットに押し込まれた。<br />
<br />
店主に礼を言い、茶葉を小脇にかかえ店を出た。注目と囁きに囲まれながら、土の道を歩き、素焼き色の館に戻る。<br />
<br />
不当な好意を断りきれなかったのは、昨日から主と同席しているティア嬢のせいかも知れない。歳のわりに冷めて見える、金茶の髪をした見習い聖女。港町を差配していた代理人ブラスフォードの忘れ形見。<br />
<br />
愛らしい顔立ちを台無しにする厳しい紺の眼。開けば辛らつな言葉が飛び出す歪んだ唇。だが、甘い菓子を味わう時くらいは、花の様にほころぶかも知れない。<br />
<br />
<br />
門前で、土ボコリにまみれてしまった馬車を黒く磨きあげ、2頭の馬をわら束でさすっていた老人をねぎらってから、館の鋲打ち扉を開けた。<br />
<br />
ティア嬢は灰色の法服を着てスタッフを手にしたまま、玄関ホールの壁にもたれていた。<br />
<br />
奥から出てきた接待役と称する恰幅のいいエプロンドレスのご婦人に、遅い昼食を頼み、二階に上がろうとして、ティア嬢がついてこないのに首かしげた。<br />
「お昼は召し上がられました？」<br />
首をふるティア嬢に手を差し伸べる。<br />
「ご一緒しましょう。ムサいひげヅラで宜しければ」<br />
<br />
金茶の髪の娘をエスコートして2階のバルコニーのある部屋に入ったとき、懐かしさを感じた。40年前にも温かな娘の手をとり、よく昼のお相手をさせていただいた。<br />
<br />
アレフ様に合わせ、夕べに目覚め、朝には横になっていらしたネリィ嬢。時たま昼過ぎに目覚められ、お食事に付き合いながら、貴婦人としての礼法やら教養を、僭越《せんえつ》ながらご指導させていただいた。<br />
<br />
いや、比較しては失礼というもの。<br />
仮にもティア・ブラスフォード嬢は、クインポート代理人のご令嬢。城暮らしに憧れる農家の娘とはワケが違うはず。<br />
<br />
野良仕事で肌ばかりか髪も焼き、色が抜けて…<br />
小麦色の肌にかかる表面だけの金髪は、ティア嬢も同じか。<br />
鍛えられ引き締まった逞しい腕。<br />
農具や牛と格闘していたネリィ嬢と同じくらい、ティア嬢の手も硬くカサついている。<br />
<br />
背もたれが高い布張りのイスを引き、無垢材のテーブルに導いた。<br />
接待役の婦人と共に白いテーブルクロスを広げ、中央にパンかごを置き、銀のフォークとスプーンを整えた。料理人が息を切らして運び込んだ寸胴ナベは、サイドテーブルに据えさせた。<br />
「お手数お掛けしました。後はわたくしどもで致しますので、皆様はお休みください」<br />
<br />
料理人とエプロンドレスの婦人を下がらせたあと、楕円のスープ皿に金色の上澄みをよそい、塩粒で味を調え、香草の葉をちぎって落としてから、ティア嬢の前に置いた。<br />
<br />
なべの中にはこぶし大のバラ肉が浮かび、皮を剥いて割ったイモと細切りニンジン、乱切りのキャベツが沈んでいた。<br />
<br />
小ツボに用意された調味料は、あら塩の他に、削ったチーズ、卵と油のソース、コケモモのジャム。<br />
キャベツとイモはチーズ。ニンジンは卵ソース。肉は酸味の強いジャムというのも面白い。<br />
<br />
「のんびり食べててイイの？ご主人様の昼の警護は」<br />
スープをひとサジ飲んだティア嬢が、パンを浸しながら問う。<br />
「買い物のついでに町を見てまいりましたが、のどかなものでした」クインポートと違って、この町の住人に反意はない「それに、わたくしがここに居る以上、地下の寝所には誰も近づけません」<br />
<br />
この部屋にある、黒くいかめしい扉の奥にある階段だけが、アレフ様のもとに通じている。ティア嬢の背後、渦の形に細工された黒鉄のヒンジと、扉を埋め尽くす複雑な模様。あれらは入るべからざる者に畏怖を植えつける結界の方陣。<br />
<br />
テーブルにつき、スープを飲んでみて感心した。材料をナベに放り込み煮込んだダケにしては、なかなかに美味。干しアンズを焼きこんだパンは昨日のものらしく少し固いが、十分に香ばしい。<br />
<br />
からになった皿を一度下げ、ばら肉を乗せ切り分ける。コケモモのジャムを添えていると、ティア嬢が立って覗きにきた。<br />
「面倒くさいから、いっぺんに入れちゃわない？」<br />
「山盛りになりますよ。味も混ざるし。もし毒や異物が入っていた時の事など考えますと…関心しません」<br />
「物騒なこと言うわね」<br />
<br />
とろける脂身に果実の酸味を添えて、やはり正解だった。赤ワインの水割りとの相性も良い。<br />
「給仕、サマになってるじゃない」<br />
「側仕えとして上がる前に、厳しく仕込まれましたので」<br />
<br />
とはいえ、主が生身の客人を迎えた時以外、発揮する機会はなくなってしまった。思えば給仕も40年ぶり。手が覚えていてくれて助かった。<br />
<br />
もう一つ、主の飲み物を用意する方は、今なお大事な役目だが…ワインを選んだり、果汁を冷やしたり、茶葉を吟味し新鮮な牛乳を調達していた頃とは違って、あまり心楽しい仕事とはいえない。<br />
<br />
主がこれと選んだ者を、なだめすかし、説き伏せて館まで同道し、入浴させるついでに衣服を改め、身と心に凶器や毒物を帯びていないかどうか確認する。<br />
<br />
理不尽な運命に、驚き怒り嘆き絶望する者達の、暗い感情を受け止め、吐き出させ、泣きつかれて諦め、抜け殻の様に大人しくなった頃合を見計らって、主の元に連れて行く。<br />
<br />
何度くりかえしても慣れられない。<br />
誇らしさも達成感も感じない。<br />
贄がたとえ、罪深い者であっても、やりきれなさが残る。<br />
<br />
考え事をしながら野菜を盛ろうとして、うっかり手にキャベツを落とした。<br />
城に侵入した3人の法衣や銀のヨロイを脱がせ、銀のネックカードや護符を外した時のヤケドの痛みが、ふと指先に蘇る。<br />
<br />
「もしかして着替えの手伝いもしてる？」<br />
明るく問う声。作り笑いを口に刷《は》き、首をかしげて見せた。<br />
「アレフって、自分では靴ヒモを結べなかったり、ボタンもはめられなかったりする？」<br />
身を乗り出したティア嬢の口元は、ニンジンをあえた卵ソースで白く染まっていた。<br />
<br />
「そんな事はございませんよ。いや、お着替えは手伝わせていただいてますが」<br />
つまんないと口を尖らせるティア嬢に違和感を覚えた。どうも令嬢という感じがしない。ネリィ嬢よりガサツに思える。男手ひとつで育てられたせいだろうか。<br />
<br />
「あたしには無理だなぁ。野郎の着替え手伝うなんて」<br />
「当たり前です、うら若いご婦人がそのようなこと」<br />
「馬車は操れるけど、御者台には上がらせてくれないんでしょ」<br />
主の命に関わる事柄に、ティア嬢の手を煩わせることなど、考えられない。たとえ、テンプルの者でなくなったと当人が主張しても、断崖の道でワザと馬を暴走させて海に突っ込まないという確信がもてない。<br />
<br />
「じゃあ、助けてもらった恩はコレで返すしかないか」<br />
ぐっと握りしめた拳に…第二関節や指の付け根、骨が透けて見えるはずの場所に、不自然なくすみがあった。<br />
<br />
ネリィ様を思い出させた手の荒れは、鋤や鎌ではなくスタッフや剣の修練の成果。手の甲のタコは素手による格闘術を嗜《たしな》む者の証。<br />
「拳で…でございますか」<br />
そういえばクインポートで司祭相手に結構な腕前を披露していた。<br />
<br />
イモを皿に盛り、チーズをかけながら、ウワサに聞いたテンプルの起源を思い出した。<br />
<br />
教会が文字と数字を人々に広め、手紙や為替を扱うようになり、帳簿上の金の差を埋めるべく金貨を駅馬車で輸送するようになった時…賊の襲撃から金と大事な文書を守るために組織された武装集団が、テンプルの元だとか。<br />
<br />
「馬車や要人の警護が、元来の生業《なりわい》でございましたね」<br />
「研修期間は短かったけど…イザとなったら身を盾にする覚悟ぐらいあるよ」<br />
「それは心強い」<br />
<br />
冗談に紛らわせようとして…気を引き締めた。権勢欲や野心は、機会があれば心にはびこる雑草のようなもの。お父上が滅ぼされたのを好機と思う何者かに、アレフ様が狙われないという保障は無い。<br />
<br />
「でもアレフ様には申し上げない方がよろしいでしょう。うら若い娘に庇われるなど、まず受け入れられないかと」<br />
「実がないプライドなんて、とっとと潰しといた方が本人とまわりのためだと思うけどな」<br />
「では、身体を張っていただく優秀な警護人に、手付けとしてこれを」<br />
「あたしはハシタ金なんかで…」<br />
<br />
ロウ引き紙から透けて見える、糖蜜星の柔らかな色彩に、不機嫌そうな顔がほころんだ。<br />
イモを潰す手を止めて、菓子の袋を光に透かせている顔は、歳相応にあどけなかった。<br />
<br />
<br />
それから数日後…。<br />
<br />
小さな駅に住み込んでいる管理人一家に断って、ドルクが井戸を使っていた時…珍しくアレフ様が馬車から降りて、婦人に何か尋ねていた。<br />
<br />
背の高さを聞いていらっしゃるようだが、はて？<br />
<br />
一緒に降りて、油断なく目配りしているティア嬢の…いや、ティアさんの警護ぶりを少し眺めてから、息の荒い馬たちに水を与えた。次の宿場町まで走らせても平気かどうか、馬蹄を検分していた時、不意に馬に蹴られかけて跳びのいた。<br />
<br />
「法服は絶対に着替えないわよ」<br />
ティアさんの硬い声に、馬たちは驚いたようだ。<br />
「それもエプロンドレスにだなんて、ナニ考えてるのよ」<br />
初冬の氷雨より厳しい声色。<br />
<br />
「何って、先日の様な騒ぎを避けるためには随行者らしい服装に替えた方が何かと。つまり貴女の身を守るために」<br />
馬より鈍感な…いや、図太いアレフ様は説得を試みておられるが…。<br />
<br />
平時ならば、いらぬ揉め事を避ける手段として、地味なドレスをまとうのは正しい方策だ。<br />
しかし生存率を上げたいのならミスリルを織り込んだローブ以上の装いはない。あざとい言い方をするなら、生きた盾としての性能が上がる。<br />
<br />
「あんた、バカでしょ？」<br />
今は非常時。ティアさんの言い分が正しい。<br />
心話で助力を求める主に、笑って首を横に振って見せた。<br />
<br />
　了<br />
<br />
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]]></content:encoded>
    <dc:subject>サイドストーリー</dc:subject>
    <dc:date>2008-10-08T01:33:57+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>久史都子</dc:rights>
  </item>
  <item rdf:about="http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%AB%A0%20%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E9%82%84%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B/11.%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E5%B8%B0%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85">
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    <title>11.生きて帰りし者</title>
    <description>賢者の石が放つ紅い輝き。光源をアレフは見上げた。砕けた窓から月が射していた。風精《フレオン》に集めさせた雲が切れたらしい。黒茶に似た香り招かれ、舞踏室を出てテラスに立った。足元に白い花びらが1枚、貼りついていた。

恣意的に引き起こした風雨に耐えた白バラが、中庭から恨みがましく見上げていた。眠り...</description>
    <content:encoded><![CDATA[賢者の石が放つ紅い輝き。光源をアレフは見上げた。砕けた窓から月が射していた。風精《フレオン》に集めさせた雲が切れたらしい。黒茶に似た香り招かれ、舞踏室を出てテラスに立った。足元に白い花びらが1枚、貼りついていた。<br />
<br />
恣意的に引き起こした風雨に耐えた白バラが、中庭から恨みがましく見上げていた。眠りに逃避していた間も、誰かが世話をしてくれたらしい。<br />
<br />
だが、ネリィはこの花を目にする直前に逝ってしまった。<br />
<br />
割れたガラスを踏む音に振り返った。白いドレスをまとった蜜色の髪の…目の色が違う。足元に影がある。ネリィではない。白い婚礼衣装を血に染めたティア。赤黒く広がる斑点が月のあばたの様だ。<br />
<br />
「死に切れていない聖騎士と拳士、どうする？」<br />
スタッフが指し示すのは血臭と臓物の山の向こう。これ以上、片付ける死体を増やすのもバカらしい。自力で歩み去ってくれるなら、ありがたい。<br />
<br />
治癒呪を施し、混乱する2人に命じた。<br />
「モル司祭がどうなったか、クインポートと銀船に残っているものに告げにゆけ。速やかにホーリーテンプルに戻らぬなら、同じ目に遭うと」<br />
這いずっていく2人の前にドルクが立ちはだかる「証だ」破れたモルの法衣と死んだ騎士の盾を押し付ける。<br />
<br />
もつれた2つの足音が遠ざかる。これで退いてくれればいいが。頭を倒しても、人の集団は消えてなくならない。高い城壁を備えたクインポートに立て篭もられると厄介だ。食料が尽きるのを待っていたら、町の住人まで食われるかも知れない。<br />
<br />
「ホーリーテンプルは、全滅したんじゃないのか？」<br />
だぶついたシャツと鎖帷子を血に染めたテオが、幽鬼のように立っていた。なりばかりか言葉まで常軌を逸している。誰に何を吹き込まれたのやら。<br />
<br />
「全滅などさせたら、金の流れが止まって」いや、森と村しか知らぬテオに理解は無理か「統制を欠いた司祭や聖騎士が世界を血に染める。この城のように」己が目で見たものなら理解できるはず「私は訪ねてくる者を歓待しろと言い置いた。害せと命じた覚えはない。それでも殺した」<br />
<br />
「だって、夜明けをもたらす…ために」<br />
「ではクインポートは。既に人の街だった。少なくとも町長とやらは、そう信じていたはず。何が起こった？」<br />
テオの心に、クインポートの惨状がよぎる。守る側に回ってくれたのか。<br />
「すまない。詰問は不当だった」<br />
<br />
「けど、手下にシリルを襲わせた。アースラ伯母さんを襲って、オレを指輪の呪いで縛って」<br />
「呪い？」<br />
血膿で粘つきからむ左袖とテオが格闘を始めた。袖が邪魔なら裂けばいいのにと、イラ立ちを覚えた頃、テオ自身もじれたらしい。左手を見せるのはあきらめ、右手で腰の物入れから紅い指輪をつまみだした。<br />
<br />
テオのイモータルリングは左の薬指にはまったまま。<br />
では、あれは。<br />
昨夜、こちらでは今朝か。命を支えきれなかった衛士の指輪。<br />
「良かった。見つからないから、砕かれてしまったものと。これで、彼だけは蘇らせることが出来る」<br />
<br />
おびえた顔で逃れようとあがくテオから、指輪をもぎ取り、舞踏室から出て、早足で階段を下りる。テオはドルクに任せたほうが良さそうだ。私が何を言っても、かたくなに拒む。<br />
<br />
ついてきた足音は一つ。そして軽い。<br />
足を止め、ため息をついた。<br />
<br />
扉を開き、中庭に出る。雨あがりの土の臭い。風で折れた枝と葉のせいか、花の香りより青臭さが強い。<br />
<br />
散り落ちたバラの花びらとコケモモの小さな白いベル。上からみたときは地に広がった星空にも見えた。ささやかな光を飲み込んで、ぬかるんだ足元に光の方陣が広がる。<br />
破邪呪。<br />
対処法は、術者を殺すか、効果範囲から…。<br />
「逃げないの？」<br />
<br />
「貴女が全てを犠牲にして求め続けた望みですからね」<br />
ティアの心の奥にある硬質な決意。憎しみの化石。<br />
モルは死んだ。<br />
仇を討ち果たせば、私を永らえさせる理由はなくなる。<br />
<br />
それにティアなら、私より強い決意と実行力をもって、賢者の石を砕き、テンプルの地下に封じられた始祖を滅ぼしてくれる。2度と吸血鬼に肉親を…親しい者の心を奪われる者がないように。報われぬ望みと孤独にさいなまれ、干からびる心を作らぬために。<br />
<br />
「ひとつ遺言がある」<br />
「遺したい言葉なんてあるの」<br />
「私のじゃない。クインポートを守ってくれていたブラスフォードの最後の言葉」<br />
「我が主《マイロード》、でしょ」<br />
ティアが鼻で笑う。心が一段と硬くなる。初めて言葉を交わしたとき。泣いていたティアが、繰り返しなぞっていた父親の最後の言葉。<br />
<br />
「続きがある」<br />
ティアを守りたいという闇雲な思いは、多分、私自身のものではない。少なくとも最初のうちは、動かしがたい気持ちだけがあって理由を後付けして納得していた。まるで、ヴァンパイアの瞳の力に囚われたヒトのように。<br />
<br />
「43年間、血と忠誠を捧げてきたのに、なぜ見捨てる。応えないなら血の絆をもって呪詛するぞ。我が娘ティアを守れ」<br />
ティアの頬が赤い。キニルで人形劇を見たときにも、こんな顔をしていた。<br />
「先に呪っておいて、脅して要求を突きつけるのもどうかと思うが…眠っていた私の夢を裂いて、刻んで逝った」<br />
<br />
「女の子を助けたのに、下心があまり無いなんて変だと思った。父親の目であたしを見てたんだ」<br />
年寄りは時折、未熟な若者の世話を焼きたくなるものだ。だが父親の情を透かし見ることで、ティアが納得して心安らぐなら、かまわない。<br />
<br />
「親なら子をもう少し見守っていたいとか、思わない？」<br />
「親は成長した子より先に逝く。いつまでも死んだ父親が近くにいては、子は前に進めなくなる。それに亡霊が長く側にいると命が縮む」<br />
<br />
「あんただって…あたしを死んだ女に重ねてたでしょ。さっき幽霊でも見たような顔して、少し懐かしそうにしてた」<br />
相変らず、カンが鋭い。<br />
「ネリィと共に、私の心も40年前に滅びたのかも知れない。抜け殻にしもべたちの思いを詰めて、心の代わりにしているだけで」<br />
<br />
「その、しもべは、代理人はどうなるの。いきなり心の繋がりが消えたら混乱しない？それに心話を使っての急ぎの連絡も出来なくなるじゃない」<br />
不思議だ。ティアは私を滅ぼさない理由を探している。<br />
<br />
「中央大陸は烽火塔とハトで何とかなっていた」メンターは心話を戦《いくさ》の道具だと言っていた「人の心を用いて強制的に行う通信など、元から異常なのかも知れない」<br />
<br />
「滅ぶ以外に方法はない？モルの親戚みんなぶっ殺す以外に、あいつが2度と子孫に取り憑かなくなる方法」<br />
2度と…は無理だろう。いずこかの亜空間に組まれたケアーのようなオートマタが、記憶を保存し、100年ごとに条件が合致した者に接触し、知識を共有する転生の呪い。<br />
害悪とも言い切れない。遠い未来に吸血鬼を倒す英雄が必要となるかもしれない。<br />
<br />
「あんたをでっかい水晶球に封じ込めるとか」<br />
擬人化精霊じゃあるまいし。いや、非実体の亜人と言う点では大差ないか。だが<br />
「ありますよ、方法は」<br />
ずしりと重く感じる紅い卵を出して握る。500年近く長らえるために歪め奪ってきた、無数の人生の重み。<br />
<br />
「キメラが合成できるなら、人の身体も組むことが出来る。素材となる贄があれば、理論上は不死の身を実体に置き換えることも」<br />
「人に戻るって…こと？」<br />
<br />
人をたぶらかし、心を奪い血を奪い、最後は命を奪って、実体の無い死人と変えるヴァンパイアが、偽りではない恋に落ちたら、成就させる方法はふたつ。殺してこちら側で共に永遠をさすらうか。殺される…人の命に殉じて、心中の道行きのごとく、あちらの限られた時を生きて逝くか。<br />
<br />
こちら側に来たネリィは悲劇で終わった。今度は私があちら側に行く番だろう。<br />
<br />
光の方陣が消える。足元にかりそめの星空が戻った。花々を照らすほのかな光は、薄れゆく月と、地平の向こうから雲の端を輝かせる朝のきざし。<br />
<br />
「いつになるかは、ティアさんのお師匠さま次第ですが」<br />
「なんでここで、メンター先生でてくンのよ」<br />
40年で肥大した教会とテンプルが、あり様を変え、敵役を必要としなくなるまで、五年かかるか十年かかるか。<br />
血の絆に頼らぬ秩序を編み上げるにも、時が要る。<br />
<br />
それでも、夜明けはすぐそこに。<br />
<br />
<br />
　　　　　　　　完<br />
<br />
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    <dc:subject>第十七章 生きて還りし者が語る</dc:subject>
    <dc:date>2008-09-27T09:02:26+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>久史都子</dc:rights>
  </item>
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    <title>10.未来</title>
    <description>「…千年の望み。十度生まれ変わりし我れらが宿願を、ついに果たしましたよ」
まばゆい光に満たされた舞踏室で、モルは天井に手を差し伸べ、笑った。

アレフが滅べば、しもべも滅ぶ。ティアはまだ転化していなかった様だが…身寄りの無い小娘ひとりに何ができる。師匠の後ろ盾も得られぬ辺境で、混沌に飲み込まれ...</description>
    <content:encoded><![CDATA[「…千年の望み。十度生まれ変わりし我れらが宿願を、ついに果たしましたよ」<br />
まばゆい光に満たされた舞踏室で、モルは天井に手を差し伸べ、笑った。<br />
<br />
アレフが滅べば、しもべも滅ぶ。ティアはまだ転化していなかった様だが…身寄りの無い小娘ひとりに何ができる。師匠の後ろ盾も得られぬ辺境で、混沌に飲み込まれる故郷を見ながら、野良犬の様に野垂れ死ぬがいい。<br />
<br />
それにしても、たわいの無い。<br />
わざわざ身を変じるまでもなかった。<br />
<br />
だが、多くの犠牲の末に作り上げた術式だ。<br />
ヴァンパイアどもが執着していた、人と他の存在との融合。連中の手が届かなかった領域、作り出せなかった究極のキメラとなり、最後の1人を滅することにこそ、意味がある。<br />
<br />
ファラの時の様な、不意打ちではつまらない。眠ったまま滅ぶなど許さない。無念で心が張り裂けそうなまま消滅してもらわねば、今生の余命を犠牲にした甲斐がない。<br />
<br />
「吸血鬼どもを全て滅ぼし、人を解放する。世界に真の夜明けをもたらす。私が千年の夢、ここに実現せり」<br />
薄れゆく破邪の光の中での、勝利宣言。身のうちから誇らしさが湧き上がる。<br />
<br />
「それはウソでしょう」<br />
喜びを打ち消したのは、ありえぬ声。消えゆく破邪の光の中に、変わらぬ黒い影が立っていた。<br />
「なら、どうして始祖を作る必要がある？ホーリーテンプルの地下にいるアレは？あなたもテンプルも、真の夜明けなど望んでいない」<br />
<br />
防ぐ術のない最強の破邪の呪。なぜ滅びていない。<br />
「吸血鬼から人を守る存在として、肥大しながら永久に存り続ける。それこそが真の望み。あなた方の浅ましい夢。存続し続けるために、吸血鬼を見逃し、始祖を生み出し、闇の子を街に放つ。そうしなければ金も敬意も集まらなくなる。100年後、子孫に記憶を引き継げなくなる」<br />
<br />
「なぜ」<br />
ホーリーシンボルが効かないはずはない。<br />
「地の呪で少々、相殺を。あとは崩壊するこの身を聖女が回復呪で補ってくれました。やはりティアの方が呪力では上。だから、恐れた。殺したいほどに」<br />
語りおえた赤い口は、細い月のように釣りあがっていた。<br />
<br />
（けど、ピュラリスの炎も効かないし、氷ももうダメっぽいよ）<br />
ティアは心話を送りながら、癒えていくモルの背中をにらんだ。うすい翼は砕けてコブになったけど、本体をどう料理すればいいんだろう。風精によるカマイタチのキズなんて、すぐに癒える。<br />
<br />
（ティアさんはホーリーシンボルの用意を）<br />
は？なに考えてるのよ。<br />
（破邪呪なら対術障壁にさえぎられない）<br />
そりゃそうだけど。生身には効かない攻撃呪。どうやって不死化させンのよ。この化け物を。<br />
<br />
噛みつくぐらいは…運と勇気と、牙が折れても構わないって覚悟でどうにかなる、かも。<br />
けど、血の絆を受け付けるようなタマじゃない。それに<br />
（殺さなきゃ闇の子には出来ないんじゃないの？）<br />
殺れないから困ってるのに。<br />
<br />
（不死化の準備はモル司祭がしてくれています。そして欠くべからざる触媒もそろっている）<br />
低い詠唱。闇に紛れて目立たないけど10の交点を結ぶ黒い魔方陣が形成されてく。この形は、ホーリーシンボルの反転。<br />
逆か。<br />
この術式を反転させて作ったのが破邪の呪。<br />
<br />
ドルクが剣舞みたいな派手な動きしてる。足止めかな。<br />
しょうがない。乗ってやるか。<br />
フリオンに油のビンを抱かせ、水晶球から呼び出したピュラリスと組ませた。<br />
「炎のつむじ風で、あいつの毛をチリチリにしちゃえ！」<br />
<br />
ドルクの剣と炎に惑わされてるスキに、三つ首の死角に入り、ホーリーシンボルの詠唱を始める。黒い魔方陣、その最も密な下に隠すように、白い方陣を組み上げた。<br />
<br />
「何を仕掛けている！」<br />
ドルクを大熊の手で払いのけたキメラが、闇にたたずむアレフに迫る。<br />
「ビカムアンデッド」<br />
応えたのはうすい笑みと冷静な声。そして呪を締めくくる発動の詞《ことば》。<br />
<br />
湧き出した闇が渦巻き、キメラにまとわりつき這い上り、その身を侵していく。<br />
「貴方がバフルで使った、不完全な術式の組み換えです」<br />
「いちど見聞きした術を模倣する…か。相変らず小器用な。だが、マネで私は倒せない！」<br />
黒い霧をまとって、アレフに突進しようとするケンタウロスが方陣から外れる前に、叫んだ。<br />
「ホーリーシンボル！」<br />
スタッフをつき、方陣にありったけの力を注ぎ込む。<br />
清浄な光が黒い霧とともに、転化しかけていたケンタウロスの半身を飲み込んだ。<br />
<br />
人と獣の絶叫。伸びてきた大ザルの前足から身をかわし、アレフが廊下に退避する。サソリの尾が蒸発し、骨までむき出しになってドラゴンの下肢が崩れていく。<br />
<br />
黒い剣を杖にドルクは立ち上がった。獣化した足をたわめて跳ぶ。ウロコと対物障壁を失った背、毛皮との境に、体重を乗せた剣を振り下ろした。背骨にぶつかって両断とはいかないが、そのまま腹まで斬り下ろす。<br />
<br />
剣を投げ捨て、血を浴びながら、創傷に手を突っ込む。異なる組織の継ぎ目、脈動する肉の奥で、硬い滑らかな石を掴んだ。直後、橙色の腕に払われた。全身の骨がきしむ。転がって壁にぶつかった。だが握りしめた手の内に紅い石はあった。<br />
<br />
異形の司祭が唱える治癒の呪。刀傷から肉芽が盛り上がる。失われた下肢も、灰化しなかった…生身のままだった赤剥けの肉やハラワタからブドウの房状の肉が生まれ膨れ、補っていく。<br />
<br />
いや、違う。肉の表をおおうのは硬い殻とぬめる粘膜。生えて来たのはヒヅメとヒレと触手。無秩序に様々な組織が分化し混在していた。<br />
「か、体が、体が、脹れる！裂ける！」<br />
モルの叫び。裏返った甲高い声。<br />
<br />
無数に生えてくる四肢が、まばたき産声を上げながら現れる幾つもの頭が、うごめく尾が…伸びると同時に本体に亀裂を走らせる。苦鳴が吐血にさえぎられる。表皮の成長が内部組織の増殖に追いついてない。筋肉や筋、骨までもあらわにして、オオトカゲの尾が落ち、ヒヅメがついた肢がもげる。膨れて裂けて再生するイビツな肉の球と化した本体から、人に近い上半身も剥落した。<br />
<br />
麦わら色の頭が床にぶつかり、太い腕がのたうつ。アレフは駆け寄った。<br />
「解呪法は」<br />
戻す方法は無いと分かっていても、聞かずにはいられなかった。もし見つからない衛士のイモータルリングを、たわむれに一度でもはめていれば、あるいは…<br />
<br />
「もう、おそい…」<br />
モルが血の泡を吹く。むき出しの内臓が肉芽を無秩序に生みだしては崩れ、流れ出していく。<br />
崩壊が進む本体も、生じる組織が次第に小さく短くなり、血と断片を周囲に広げながら氷の様に解けていく。<br />
<br />
「これが、今生での貴方の成果か」<br />
「…長生きは飽きました。老いても生き続けるのは疲れる…いつまでも若いあなたには分からないでしょうが」<br />
英雄モルは長寿だったと聞く。開祖モルも長命だった。だからといって…いや、よそう。<br />
<br />
たとえ前世の記憶があろうと、モル・ヴォイド・アルシャーとしての生は一度きり。そんな分かりきった事でも、いまわの際に聞かせるのは残酷だ。それを言う資格もない。<br />
<br />
弱いと、すぐに倒せると、私が侮られていたことが、この若者に性急な方法を選ばせた理由かも知れない。<br />
<br />
ファラ様の様に強大であれば。用心深く狡猾であれば。眠り姫などという、ふざけた二つ名をいただくような、無能で卑小な存在でなければ。<br />
彼も時をかけ思考をめぐらせ…その過程で、受け継いだ記憶に流されぬ強い自己を確立できたかもしれない。<br />
<br />
「私はまた戻ってきます…私の子孫の中に。ファラの弟子なら私の血を受け継ぐからといって罪もない者を殺す…など」<br />
モルは勝ち誇ったように笑った。<br />
「70年後にまた再会を……」<br />
モルの息と鼓動が止まった。内臓の崩壊も止まる。胸から上は人の姿を保ったまま、冷たくなっていく。<br />
<br />
見開いた目をなで、閉ざしてやった。<br />
「そんな遠い再会を待つ気はありません。未来へ行くのは貴方だけ。それに、寝起きの悪い危険な英雄を、わざわざ目覚めさせる親切心も持ってません」<br />
<br />
ホーリーシンボルに全精神力を注ぎ込んで座り込んでいたティアがふらりと立ち上がる。<br />
「バッカみたい。自分にかけた術が暴走して壊れちゃうなんて」<br />
動かなくなった肉塊をスタッフでつつき、ワザと踏みしだき、モルの死に顔を覗き込んであざ笑い、悪態をつく。<br />
<br />
むくろ相手に父親の遺恨を晴らしているティアは放っておいて、紅い石を握りしめたまま、壁際で震えているドルクに治癒呪を施し、ねぎらった。<br />
「ありがとう。賢者の石を奪い返してくれて」<br />
<br />
渡された紅い石を見つめる。先史文明の遺産。今の技術では作れない触媒。これを砕いてしまえば、不死化の呪は当分使えなくなる。いずれ再現する者が現れるかもしれないが、百年や二百年ではムリだ。<br />
<br />
<br />
私と、ホーリーテンプルの地下に閉じ込められている、作られた始祖が滅びてしまえば、この世から不死者はいなくなる。モルの記憶を受け継ぐ者も、当分は現れない。<br />
<br />
血に染まった紅い石。<br />
命をゆがめ、作り変える、暗い卵。存在そのものが禁呪といえる。方陣と星辰と贄が整えば、影の無い身を、実体に戻すことさえ可能だと、ファラ様が残した書にあった。<br />
<br />
森の大陸で失われた…いや、奪ってしまった数万の命。ファラ様の滅びと共に、40年前、ここで灰となったネリィ。この賢者の石があれば助けられたかも知れない。生身に戻せたかも知れない。<br />
<br />
不可能だったと、ありえないと、理性は否定しても、握りしめた可能性と手段の実在が、胸の奥から後悔を引きずりだす。<br />
掲げた紅い石が、目を射るように鮮やかに輝いた。<br />
<br />
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<br />
]]></content:encoded>
    <dc:subject>第十七章 生きて還りし者が語る</dc:subject>
    <dc:date>2008-09-24T23:18:51+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
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    <link>http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%AB%A0%20%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E9%82%84%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B/9.%E7%B4%85%E3%81%84%E7%9F%B3</link>
    <title>9.紅い石</title>
    <description>月光を透かせて青緑の翅《はね》が広がる。踏み出されたのはオレンジ色の毛に覆われた大熊の前足。床石を砕く爪は光沢のある赤。窓を粉砕する紺色は太いサソリの尾。体躯と太い後肢は鮮黄色のウロコがきらめくドラゴンに見えた。

肩には黒い炎狗《ファイアドッグ》と半透明の海獣の頭。急激な変化で裂けてしまった法...</description>
    <content:encoded><![CDATA[月光を透かせて青緑の翅《はね》が広がる。踏み出されたのはオレンジ色の毛に覆われた大熊の前足。床石を砕く爪は光沢のある赤。窓を粉砕する紺色は太いサソリの尾。体躯と太い後肢は鮮黄色のウロコがきらめくドラゴンに見えた。<br />
<br />
肩には黒い炎狗《ファイアドッグ》と半透明の海獣の頭。急激な変化で裂けてしまった法服をかなぐりすて、隆とした肩と胸を誇示しながら見下ろす顔は、麦わら色の髪の青年そのまま。<br />
<br />
平行世界から喚びだした生き物の血肉と、術者自身を素材に生成された3つ首のケンタウロス。身にまとう物理障壁と耐術障壁の干渉が生み出す金属的な輝きを含め、美しいと言えるかも知れない。だが…嫌悪と哀れみがアレフの胸に湧き上がる。<br />
<br />
後戻りできない術だ。消化管が潰れている。いくら力が有り魔力が高くとも、数日の命。敗血症か壊疽で腐り死ぬ。モル・ヴォイド・アルシャーには勝って長らえたいという、本能すら欠けている。心にあるのは妄執ではない。重なる死と生の記憶の果ての虚無。<br />
<br />
「アレフ様をバケモノと呼ぶのは、鏡を見てからにしていただきたい」<br />
ドルクは剣を構えた。<br />
「うるさい」<br />
モルが、異形の怪物が、吠えた。右肩の黒いコブが赤い口を開き、炎を吹きだす。<br />
<br />
ティアが左に走るのを見て、ドルクは右に走った。扇状に広がる炎を迂回して、後ろ肢に斬りつけた。聖騎士のヨロイを易々と断ち割ったへパス様の黒耀の刃が、黄色いウロコに弾かれる。ついた浅い傷もすぐに肉芽で埋まる。<br />
<br />
止められなかった炎の先を振り返った。アレフ様がテオを抱えて、廊下まで跳ばれるのが見えた。まったくご奇特なことで。情けをかけられた若者が、さらに傷つかないといいが。<br />
<br />
上からの殺気を感じて飛びのくと、立っていた床に、丸太の様なサソリの尾が突き刺さった。<br />
<br />
モルの関心が正面のアレフと右のドルクに向いたのを見計らい、ティアは風精《フリオン》と共に高く飛んだ。麦わら色の頭をシマウリの様に割ってやる。スタッフを振り下ろした瞬間、でかいチョウの翅《はね》が打ちふられ、すごい風が起きた。<br />
<br />
フリオンが吹き散らされる。上下が分からなくなった。物理障壁を司どる額の水晶に意識を集中しながら、身体を丸める。痛手が最小限になるよう願った。背中にぶつかったのは床でも壁でもない……アレフ？　テオの次はあたしのフォロー。気が効くようになったじゃん。<br />
<br />
「逃げますか。あの図体です。階段は下りられない。重いから翼はあっても飛べない。跳び下りたら四肢が砕ける。何もしなくても、近いうちにモルは死ぬ」<br />
今さら、なに腑抜けたこと言ってんのよ。<br />
「イヤよ。自殺も病死も、あたしは認めない」どうやったら、この甘ちゃんの逃げ道を断てるんだろう。あ、そうか「紅い石を悪用すれば、モルは不死者になれるよ」<br />
<br />
バフルヒルズ城を悲劇でおおった術具。サウスカナディ城に押し寄せたキマイラも賢者の石によるものだったはず。<br />
永遠の命をもたらす貴重なファラの遺産。でも人の手に渡ってからは、大量の死を振りまいてきた呪われた石になった。<br />
<br />
アレフは黄金のキメラに目をこらした。<br />
そうだった。<br />
紅い石を奪い返すために、ヘパスの協力を受け入れた。<br />
<br />
いま、紅い石はモルの体内にある。おそらく下腹にある異種生物との結合点。障壁と毛皮と厚い筋肉の奥。<br />
「厄介ですね」<br />
風は打ち消される。炎も効果が薄い。氷…素材となる水がもうない。目の前が暗くなる。<br />
<br />
月を雲がおおったのか。<br />
闇に乗じてドルクが切りかかる。黒い刃を食い込ませたままモルが足元の銀の剣を拾い上げ、打ち払う。火花が散った。<br />
<br />
腕の中からティアの重みと温もりが消えた。スタッフでの殴打をまた試みるのか。太く硬いサソリの尾が振り上げられる。かろうじてスタッフで受けながした様だが…共感した右手がしびれる。せめて動きを止めなければ。<br />
<br />
水がないなら、降らせればいい。<br />
今夜は珍しく雲が多い。<br />
「フリオン！」<br />
散った風精を呼び集め、魔力を注いで再構成した。<br />
「雲を上に集めてほしい。好きなだけ飛び回ってかまわない」<br />
幼女のけたたましい笑い声を含んだ風の音が、割れた窓から飛び出し、上空へと遠ざかる。<br />
<br />
物入れから鉄粉のビンを出し、大気に干渉する魔方陣を描き上げた。ここは自城。今は夜。クインポートで雨を呼んだときよりうまくいくハズ。<br />
<br />
気圧がさがる。雲と霧が渦となって上空へ吸い上げられていく。<br />
「…何を仕掛けようとしている！」<br />
気付かれたか。だが、ドルクとティアの相手で精一杯のはず。<br />
魔力を込め、雨を呼んだ。フリオンが大量の雨滴とともに上空から駆け戻ってくる。<br />
<br />
氷の呪の詠唱を開始する。<br />
「また氷つぶてか。そんな子供だましが効くか！」<br />
モルが吼えた。物理障壁が強化されるのを感じた。ならば、氷そのものの性質を利用するまで。<br />
<br />
（伏せて下さい）<br />
ガラスの破片と共に吹き込む風雨が室内を荒らすに任せる。全てが濡れそぼったあと、おもむろに氷の呪を…大気から熱を奪う術式を、モルを中心に発動させた。<br />
<br />
オレンジ色の毛皮もウロコもサソリの尾も、びっしりと白く凍りついた。だが、雪像と化したケンタウロスから、笑い声が響く。人体と黒狗のあたりから、氷は溶けていく。<br />
「体温を少し上げればすぐに融ける氷で、この身を拘束できると思ったか」<br />
<br />
さすがに凍え死んではくれないか。だが薄い翅は…寒さで感覚がマヒしていたであろうチョウの翅は、表面を薄くおおう氷の重みに耐え切れず、割れ砕けた。<br />
「ティアさん、フリオンをお返しします。もう、キメラは風を呼べません」<br />
<br />
「よくも、よくも、よくも」<br />
獣と人。三つの口が同時に悪態をつき呪をつむぐ。くぐもった詠唱と共に床に走る光。あらかじめ用意してあったと思われる10の交点。<br />
「私の美しい翅を」目は眼窩からこぼれ落ちそうなくらい、見開かれていた「もう遊びは終わりだ。消え去れ、滅びそこないの吸血鬼めっ」<br />
舞踏室の床全面から、破邪の清浄な光が吹き上がった。<br />
<br />
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<br />
]]></content:encoded>
    <dc:subject>第十七章 生きて還りし者が語る</dc:subject>
    <dc:date>2008-09-22T23:04:26+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>久史都子</dc:rights>
  </item>
  <item rdf:about="http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%AB%A0%20%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E9%82%84%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B/8.%E7%B4%84%E6%9D%9F">
    <link>http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%AB%A0%20%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E9%82%84%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B/8.%E7%B4%84%E6%9D%9F</link>
    <title>8.約束</title>
    <description>オレをまっすぐ見つめてる。気味悪がってない。やはりティアは、真心が伝わる娘《こ》だった。
あの人の言うとおりだ。信じてよかった。

なのに、どうして気付かない。
幻想の愛。偽りの誓い。奪われるのは生血。与えられるのは永遠の束縛。
幸せを包むはずの花嫁衣裳が死のワナだと、どうして…

「...</description>
    <content:encoded><![CDATA[オレをまっすぐ見つめてる。気味悪がってない。やはりティアは、真心が伝わる娘《こ》だった。<br />
あの人の言うとおりだ。信じてよかった。<br />
<br />
なのに、どうして気付かない。<br />
幻想の愛。偽りの誓い。奪われるのは生血。与えられるのは永遠の束縛。<br />
幸せを包むはずの花嫁衣裳が死のワナだと、どうして…<br />
<br />
「ゴツくなったけど、テオだよね。何で？」<br />
「何でって」<br />
「あたし達、始まる前に終わってるよね？」<br />
オレ…またフラれた？<br />
<br />
「ちょっと言葉が遠まわしすぎたかな。だからマジな色恋ザタって苦手」<br />
いや、ティアはヴァンパイアの魔力に捕らわれているから、だから。<br />
<br />
「誤解させてごめんなさい」<br />
ティアが人差し指で、背後のアレフを指す。<br />
「“コレ”は断るための口実で」<br />
次にオレを…いや、オレの後ろを指差した。<br />
「“ソレ”を、あたしのオヤジと同じ目にあわせてやるのが“まだやること”」<br />
振り向くと、ソレ呼ばわりされたモル司祭が笑みを浮かべていた。<br />
<br />
「誤解を解くのは大事でございますが、傷ついた青年の心に、塩をすり込まずとも」<br />
ティアの袖を引いてる禍々しい黒ヨロイ。声に聞き覚えがある。弓は持ってないけど、森に選ばれし戦士。一緒に戦ったダーモッド？<br />
<br />
ティアがうるさそうに、ダーモッドを振り払う。<br />
「それに、あたしは人を殺した手で赤ん坊のおしめを替えるつもりはない。わかった？」<br />
オレは一方的な思い込みで、海を渡り、体まで変えて。<br />
<br />
いや、ティアが振り向いてくれないのは、少しだけ、覚悟してた。<br />
魂を自由にする。<br />
呪われた運命を断ち切って、ティアを開放するためにオレは来たんだ。<br />
<br />
真っ白なティアの後ろに、佇んでる黒い影に向かって、一歩踏み出そうとした時。<br />
「危ないですよ」<br />
眼前にくるりとスタッフが下りてきた。真横にモル司祭の顔があった。月光を含んだ髪が、ほぐした亜麻のようだった。<br />
<br />
「おかえりなさい」<br />
嬉しそうな声。今にも笑い出しそうな尖った横顔。<br />
「司教長の血は…美味でしたか？」<br />
アレフの口元が歪んだ。もしかして味を思い出して笑ってんのか。<br />
<br />
敵が来たと叩き起こされて、この広間に駆けつけた時、言われた。ホーリーテンプルが全滅したかもしれないと。信じられなかった。でも…<br />
<br />
アレフが右腕を軽くふる。森の城で失った鋼の手甲の代わりに、不吉な黒い手甲がはまっていた。ティアが真顔になる。半回転したスタッフが正面で静止する。2人とも、言い訳しない。モル司祭が言ったことを否定しない。<br />
<br />
世界に夜明けをもたらした白亜の聖地は、血に染まって闇に落ちた。アレフを倒せるのは、もうオレ達だけなんだ。背負った剣の柄を握りしめた。<br />
<br />
「教則本に従うなら、敵はすべて排除したと、安心して棺に横たわっている胸に杭打って断首ですが…玄関のワーウルフ。私はイヌが嫌いでね。うっかり殺してしまいました」<br />
後ろめたい痛みがよぎる。うつむきかけて…硬い音に顔を上げた。ダーモッドが黒い剣を抜いていた。<br />
<br />
応じて、オーエン達も剣を抜く。オレも背中の剣を抜いて、両手で構えた。<br />
「これじゃあ私の訪問がバレてしまう。だから覚悟を決めてここで待っていたんですよ」<br />
ヒビが入った薄い板を渡るような緊張。でも、頭が澄み渡る。心が静まる。互いの位置がはっきり分かる。<br />
「じゃあ、始めましょうか。ヴァンパイア退治を」<br />
<br />
「父さんの仇っ！」<br />
ヴェールを後ろに引いてティアが突っ込んでくる。ドルクとオーエンの剣がぶち当たる音が響いた。支援に向かおうとしたルシウスの前に炎が舞う。室内を暴風が駆けて壁際のキメラたちの邪魔をした。<br />
<br />
視界が明るい。森の城でもこんな感じだった。一瞬、自分どこにいるのか混乱した。敵味方の位置を確認して、アレフに詰め寄られているのに気付いて慌てた。<br />
<br />
黒と銀の影から繰り出される拳。4本の刃が、目の前に迫る。とっさに剣で受けた。姿勢が崩れ、剣が弾かれる。柄から右手が離れる。でも筋肉でふくれあがった左手が剣を掴みなおす。力を増した足が踏みとどまってくれた。<br />
<br />
開いた右肩を掴まれ、脇腹を蹴られた。肩を砕かれそうな痛み。たわむ肋骨。初めてアレフが人間じゃないと確信できた。<br />
でも、肩は動く。息は吸える。まだ剣は振れる。背を丸めて転がって起きた。敵は…すこし離れた位置。オレは太ももに力を溜め、一歩で切り込んだ。<br />
<br />
うまく意表をつけた。アレフの反応が鈍い。<br />
胴を両断するつもりで、ないだ。硬くて弾力のある奇妙な手ごたえ。斬れない。骨を砕けない。<br />
でも細い身体は、ふっ飛んで壁にぶつかる。力は強くても体重は見かけどおり。むしろ軽い。<br />
<br />
追い討ちをかけようとして、立ち止まった。虹のキラメキ。袖に仕込まれたティアの小刀。軌跡はわかっていた。リネンの袖で絡めるように叩き落とし、振り返った。もう、ティアはこっちを見てない。ホーリーシンボルを使わせないよう、炎を伴って、モルとスタッフをぶつけあってる。<br />
<br />
この連携がオレたちの強みだった。互いが盾となり、デタラメみたいな牽制が、離れた敵の態勢を崩す。視線を戻すと、アレフは消えうせていた。どこへ…見上げたが頭上にはいない。<br />
<br />
求める心が、部屋の入り口に視線を引きつける。たしか、モル司祭が聖水を仕掛けた場所。青白い魔方陣。浮いているのは無数の氷。まずい。<br />
<br />
風に乗って飛んで来る白い粒を、跳んで避けた。後ろで上がる悲鳴。モル司祭が顔をおおう。不意を突かれた拳士ルシウスがティアに殴り倒される。銀のヨロイを紅く染めてヒザをつく聖騎士。その向こうで、黒い獣めいた騎士が剣を振り血を払う。<br />
<br />
なぜ避けない。来るのが分かって…<br />
もしかして、分かっていたのは、オレだけ？<br />
<br />
「その通りです」<br />
真後ろで声がした。振り向こうとした足を払われた。仰向けに倒れた。<br />
アゴを掴む冷たい手と、肩を押さえこむヒザのせいで、動けない。アレフが右ひじを引いていた。オレの首を、命を、引き裂こうとしている4つの刃。<br />
<br />
殺られるのか。<br />
でも白い顔は、怯んでいるような、迷っているような？<br />
<br />
足を高く上げ、反動で強引に起き上がる。首と肩の痛みを無視して、アレフの体をはねあげた。<br />
アレフが体勢を立て直す前にないだ。あの妙な感触はマントだけ。細長い左腕には刃が食い込み、血がしぶく。<br />
<br />
アレフは左腕を押さえて間合いを取ろうとしてる。呪の詠唱。森の城でいく度かオレも世話になった回復呪。治される前に。<br />
「トドメを刺す」<br />
狙うなら心臓か頭。壁際に退いた黒い姿めがけて、剣を構え、体ごとぶつかった。<br />
<br />
勝利を確信した瞬間、横から何かがぶつかり視界が暗くなった。体が横に流れる。剣が壁に突き刺さる感触。外した。気が遠くなる。<br />
<br />
…床の敷石が滑らかで冷たい。オレ、まだ生きてる？<br />
<br />
「汚いわよ！アレフがテオを傷つけられないの知ってて、連れてきたのね」<br />
真上から声が降ってきた。目を開けると、白かった。これはティアの白いブーツとスカート？<br />
<br />
「おやおや、テオは貴女を助けに来た騎士ですよ。手加減ナシに頭を殴るなんて…むごい聖女様だ」<br />
「平気よ。イモータルリングをしてるから。アレフが滅びない限り、テオは死なない。どんな傷をおっても」<br />
<br />
剣戟の音はしない。銀の聖騎士と黒い獣騎士の決着はついたのか。オーエンは…生きてる。でも手首に小刀。足の骨を折られて呻いている。もう一人は、失血で意識がない。<br />
<br />
仲間が傷ついて、死にかけてるのに、どうしてモル司祭は笑っていられるんだ。まだキメラが居る。だけど、あいつらは言うことを聞かない。<br />
<br />
「痛みはあるだろうに」<br />
「死ぬよりはマシよ」<br />
<br />
沈黙。<br />
嫌な感じがした。オレの一部が…力を求めて獣や竜の力を合成した腕や足が、震えてる。<br />
<br />
「死んだこともないくせに」<br />
低い声。したたる憎しみ。<br />
「死なないお前等は化物だ。人の手におえる相手じゃない」<br />
モル司祭の声なのか。いつもの余裕も、若さも感じられない。<br />
<br />
「人は儚くて弱い。我慢してファラに頭を下げてやったのに。私には資格が無いと言ったのですよ。あの女！」<br />
こんな声、聞いた事がない。反乱を起こした水夫が、操舵室に立てこもった時も、そいつを縛り首にしたときも、モル司祭はいつも落ち着いて、穏やかに哀しげに微笑んでいたハズ。<br />
<br />
「でも、もういいんです。私は作り上げました。人の力を源とする不安定で弱点だらけの不死身なんかとは比べ物にならない…真の強さ」<br />
身体が、行きたがっている。惹きつけられる。<br />
<br />
「こっちに戻っておいで、テオ。私の…生者の明日を守る盾となるために」<br />
「行っちゃダメよ」<br />
「テオをだまして盾にした魔物。可愛がってくれた伯母さんを襲った吸血鬼。アレフを倒すためにキメラとなったはずでしょう？」<br />
<br />
立ち上がり1歩踏み出した鼻先に、ななめ下からスタッフが突き出された。<br />
「逆でしょ。アレフがテオの盾やってくれてたンじゃない。伯母さんに頼まれて…っていうか、縛られて。血の絆って言うより、血の呪いよね」<br />
アースラ伯母さんが、頼んだ。何の話だ。<br />
<br />
「テオ、教えたはずです。もう身体は元に戻せない。その身は私の元でしか生かせないと」<br />
そうだ。力と引き換えに、人としての身体と未来をモル司祭に差し出したんだ。オレにはもう、当たり前の人生はない。数年の余命だって言われた。<br />
<br />
ヘタり込みそうになった時。後ろから冷たい手に捕らわれた。<br />
「テオはしもべ。とおに私のものです。先に約束したのは私」指が熱い…左手の血色の指輪から熱が広がる「シリルの村長に無傷で連れ戻すと」<br />
<br />
風邪を引いたときみたいに、皮膚が、ウロコが泡立つ。骨と関節がきしむ。肉が痛む。ブカブカの袖から血と膿が滴る。足が腕が、崩れ剥がれ、しめった音を立てて足元にたまる。なぜか痛みがない。それが一番無気味だった。<br />
<br />
「再生力を上げるだけの指輪かと思ったら、過去の肉体を記録しておいて、再構成する術具でしたか」<br />
病み上がりの様な倦怠感。床にたまった赤い水たまり。オレの一部だった生臭い泥の中に、ヒザをつき、倒れた。<br />
<br />
鉄さびの様な笑い声が、耳をこする。<br />
「まあ、いいでしょう。テオを取り込み盾とするのは余興。あなた方の困った顔を見たかっただけの事」<br />
風で縫いとめられていた、異形の怪物たちの悲鳴が上がった。<br />
「私が理想とする力と美には、少し余分でしからね」<br />
<br />
何かが生まれようとしている。<br />
血の匂いがする生暖かなぬかるみから顔を上げた。窓際に、赤い光を抱いた歪な影。モル司祭だったモノが、新たな形を得ようと蠢いていた。<br />
<br />
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]]></content:encoded>
    <dc:subject>第十七章 生きて還りし者が語る</dc:subject>
    <dc:date>2008-09-20T15:38:29+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>久史都子</dc:rights>
  </item>
  <item rdf:about="http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%AB%A0%20%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E9%82%84%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B/7.%E7%95%B0%E5%BD%A2">
    <link>http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%AB%A0%20%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E9%82%84%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B/7.%E7%95%B0%E5%BD%A2</link>
    <title>7.異形</title>
    <description>「これは、何の冗談かなぁ？」
ぴらぴらしたボリュームたっぷりのドロワーズも、胴ヨロイ代わりのコルセットも、肩と腰まわりがフクれたドレスも、指だし手袋も、ブーツも…
「どうして、真っ白なのよ！」

「よく似合ってるよ、ティアちゃん」
透きとおったヴェールつきのティアラを片手に、ニヤついている...</description>
    <content:encoded><![CDATA[「これは、何の冗談かなぁ？」<br />
ぴらぴらしたボリュームたっぷりのドロワーズも、胴ヨロイ代わりのコルセットも、肩と腰まわりがフクれたドレスも、指だし手袋も、ブーツも…<br />
「どうして、真っ白なのよ！」<br />
<br />
「よく似合ってるよ、ティアちゃん」<br />
透きとおったヴェールつきのティアラを片手に、ニヤついているヘパスとかいう世捨て人…じゃないや、世捨て吸血鬼をにらみつけた。<br />
<br />
「なに、無粋な法服より燃えにくいし破れにくい。斬撃に強いし、重ねたレースが打撃も防ぐ。夜の女王様に献上するつもりだった戦装束《いくさしょうぞく》を仕立て直したモノだが、染める時間がなくてね」<br />
<br />
純白は死人がまとう屍衣の色。さもなきゃ結婚式の花嫁衣装だ。人里はなれた一軒家で、おっさんが夜なべして白無垢をぬってる姿を想像すると、かなりキショい。こいつがファラに嫌われた理由、人がたくさん死ぬ呪法が好きってだけじゃない気する。<br />
<br />
そりゃあ、ドルクがまとうような漆黒のプレートメイルなんか着込んだら、あたしの身軽さは生かせない。テンプルで苦労して身につけた体術も使えなくなっちゃうけど。<br />
<br />
「このティアラは生身の娘さん用に新調したからね。守りの要となる、物理障壁の呪式を封じ込めた水晶に、耐火呪と耐冷呪を封じた青玉と紅玉」<br />
載せられたティアラが頭になじむ。込められた力そのものは信用できるみたいだ。<br />
<br />
「使い魔を先行させ…」<br />
不自然に止まった言葉。虹を帯びた夜明け色の裏打ちに変ったマントと、半透明の刃つき手甲をつけたアレフが後じさりしてた。<br />
「入り口でたじろぐな！頬を染めンな！花ムコじゃあるまいし」<br />
おっと頬がバラ色なのは、どっかで血を吸ってきたからか。ううん、そういう細かい事はどうでも良くて。<br />
<br />
「とても奇麗ですよ。小麦色の肌に白は似合っ」<br />
「気持ちわるい！」<br />
こいつの女への気遣いって、なんかワザとらしい。仕込んだのが母親かファラかは知らないけど。シッポの先まで完ぺきにシツケられた犬を見てるみたいで、イライラする。<br />
<br />
「その、明りがついていたのは城館の最上階のみ。結界を作りかえられたようで、テラスへの転移は無理。ワナや異界からの召喚獣が配置されていると思うが」<br />
「正面から行くしかないんでしょ。いいじゃない。じぶんちなんだから堂々と帰れば」<br />
<br />
「忍び込むには、少し目立つ格好でございますしね」<br />
獣を象ったカブトの奥で含み笑いしてても、ドルクには腹が立たない。これって人徳ってヤツかな。<br />
<br />
とりあえず、外で軽くスタッフを振って型を試してみる。スネまでのスカートは法服より軽くて頼りないけど、足には絡まない。腕の動きも邪魔しない。レース重ねた立ちエリは色気より守り優先。これが戦装束ってのは本当みたい。なによりムレないのが気に入った。<br />
<br />
転移の呪の方陣に入った時、見送りに出てきたヘパスがつぶやいた。<br />
「アレフの内に居る非業の死を遂げた…と、死地に向かう乙女への、せめてもの手向けさ」<br />
お生憎様。あたしは生きて帰るからね。オヤジの仇を討って、無事に帰ってみせる。<br />
笑って見返してやった。<br />
<br />
丸い結界の向こうを虚ろな無色が包んだ。<br />
頭上に星と月に輝く雲が戻ったとき、目の前に四角い闇が口をあけていた。漂ってくるのはムッとする血の臭いと瘴気。<br />
<br />
いく度も夢見た状況。<br />
といっても真昼に、横で強ばった顔してるヒョロくて黒い魔物の胸に杭ぶっ刺しに行く場面だけど。<br />
まさか真夜中に、こいつと乗り込む事になるとは想像もしなかった。<br />
<br />
「単独での召喚なら還す事も出来ましたが…」<br />
のっそりと出てきたのは、片羽の獅子？<br />
「微生物の感染ならまだしも、異なる生物を混ぜられては」<br />
後ろ足にヒヅメあって尾がムカデって。意味あるのか。特に折れ曲がった羽。<br />
<br />
「すっごく機嫌が悪そうなんだけど」<br />
「口臭がおかしい。融合した内臓がまともに機能していないようです。痛みを感じないよう、脳の分泌器官に異様な血流が」<br />
「良くわかんないけど、吐きそうなのにイイ気分になってる、タチの悪い酔っ払いみたいなモン？」<br />
深刻ぶってうなづくアレフはほっといて、ドルクに目配せする。<br />
<br />
ざわりと身震いしたドルクの気配が変わる。獣化。ヨロイに包まれてて分かんないけど。<br />
「参ります！」<br />
漆黒の刀身を抜き放ち、片羽の獅子に切りかかる。あたしもスタッフを構えて突っ込む。<br />
<br />
振り下ろされる前足を、肉球ごとドルクが断ち割る。咬み返そうと開いた口に、スタッフを突き入れた。首を振って後ろ足で立ち上がった胸に、黒い切っ先が突き刺さる。よし、1匹たおした。<br />
<br />
「まだです！」<br />
無事な方の前足が頭上に落ちてきてた。ギリギリでガラスめいた4つの刃が突き刺さった。避けて振り返ると、支えきれなかったのかアレフがヒザをつく。<br />
「ピュラリス、お願い」<br />
炎が舞ってタテガミが燃え出した。ドルクが剣をヒネりながら抜くと、真っ黒な血があふれ出して、片羽の獅子は動かなくなった。<br />
<br />
「ありがと。助かった」<br />
顔が引きつってるクセに、大丈夫なフリして鷹揚に頷いてるのがおかしい。憎まれ口を叩きたくなる。<br />
「すっごい進歩よね。一緒に“なりそこない”と戦った時は、役立たずだったのに」<br />
<br />
ドルクは先に行って、石の床を確かめてた。<br />
なんか悔やみの言葉を呟いてる。<br />
渡されてた水晶玉を介してケアーに触れる。あたしの眼には暗がりにしか見えない。ドルクやアレフの視覚を借りて、視てみた。<br />
<br />
白い塩の輪と、赤黒い複雑な…魔方陣。砕けた骨と肉片。変色した皮膚がはり付いてる。引き裂かれた血染めの布ヨロイ。<br />
ここを守ってた衛士の亡骸か。<br />
<br />
「心残りだろうけど、埋葬するのは後。今は前に進まなきゃ」<br />
奥から別の気配が近づいてくる。この臭いはケモノと…カエルかな？まったく節操無く合成したもんね。生きて動いてるのが奇跡だわ。<br />
<br />
「彼らが外へ出ないよう、ここに結界を張っておきます」<br />
獅子の血で2本の線を引き、小石を配して、アレフが呪を唱える。<br />
「あの獅子は、あたしたちが近づくまで出てこなかったよ。そういう風になってるんじゃない？」<br />
「召喚者であるモルが死んでも、統制が利いているなら良いのですが…それに、後始末をするような親切心、彼が持ち合わせているとは思えません」<br />
確かに。<br />
<br />
「次きたよ。カメの甲羅を持つ牙ネコ。でも動きは鈍いし、首引っ込められないから、楽勝かな」<br />
「油断は禁物です」<br />
そりゃ体重はありそうだけど…って、このカメ、火を吹きやがった。どんな体の構造してんだ。てめえの口も火傷してるし。<br />
<br />
耐火呪を仕込んでくれたヘパスにちょっとだけ感謝しながら、炎を突っ切りスタッフで頭をぶん殴る。下に突き出した牙が敷石のスキマにはまり込んだ。機会を逃さず、うなじにドルクが剣を叩き込み、強引に引き切る。血と火を断面から吹きながら、頭を失ったカメが結界に突撃し…弾かれて、ひっくり返った。<br />
<br />
「へぇ、けっこう丈夫じゃない」<br />
「…物理障壁も合わせておいて正解でした」<br />
爪先立ちで壁にへばりついてる情けない姿については…もう、いいや。<br />
<br />
その後も、ヘビを全身に生やした大ザルをぶちのめし、分かれ道でウジの体を持つデカいネズミを叩き潰し、階段にはびこる、酸の実をゾウの鼻っぽいツルで器用にぶつけてくる食虫花を焼き払った。<br />
<br />
チョウの羽をウロコの様に背中にいっぱい生やしたドラゴンは、前足を切られて逃げてった。咳が止まらない。毒チョウだったのかな。風精《フレオン》に鱗粉を吹き清めさせて、進んだ。<br />
<br />
むしろ歩みを止めさせるのは、焦げたオオカミや溶けかけたコウモリ。実体を持つ生きてた使い魔と、城仕えの使用人の、遺体。両断されて変身が半分解けないまま逝った獣人。頭を食いちぎられたエプロンドレスのオバさん。<br />
<br />
「全て終わったら、人を呼んでちゃんと弔おう。だから今は」<br />
決まり文句の様に繰り返して、先に進む。<br />
<br />
皮がヨロイみたいに分厚い、馬っぽい首の牡牛を追い払い、壁を腐食させながら広がるでっかい粘菌は適当にやり過ごし、ヒレの代わりにタコの足をひらめかせる太いウナギは、風と火で乾かしてやった。<br />
<br />
城の上部は…意外と質素。飾りが何もなくてツマんない。地下道を進んでいるのとあんまり変わらない。<br />
ケアーから送られてくる見取り図で、迷うこと無く北に位置する舞踏室にたどり着いた。<br />
<br />
この城に入って始めて見る、華やいだ彫刻が施された扉。開けた瞬間、後ろに強い力で引っ張られた。水が上から落ちてきた。丸い物理障壁に沿って流れ落ちて床をぬらす。異臭はない。<br />
「ただの水？」<br />
「聖水です。たちの悪いイタズラだ」<br />
見上げると、ひっくり返ったツボが揺れてた。<br />
<br />
拍手がした。<br />
扉の向こう、窓際に数人分の影。中央は灰色の法服を着たモル。やっと再会できた。さっき逃げた毒チョウのドラゴンや、牡牛をはじめとする幾体かの怪物をななめ後ろにに従えてる。横には黒い布ヨロイの拳士と銀の戦士2人。で、大ザルっぽい剣士は何？人間と合成した怪物かな。<br />
<br />
「ティア、魔物から、アレフから離れてこっちへ来るんだ！そいつが欲しいのは生き血だけだ。ささやくのは偽りの愛だ。そ、そんな花嫁衣裳なんかに、だまされるな」<br />
<br />
あれ、この暑苦しい声と顔…<br />
「テオ？こんなところで何してンの？」<br />
<br />
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<br />
]]></content:encoded>
    <dc:subject>第十七章 生きて還りし者が語る</dc:subject>
    <dc:date>2008-09-18T00:32:24+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>久史都子</dc:rights>
  </item>
  <item rdf:about="http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%AB%A0%20%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E9%82%84%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B/6.%E5%9C%B0%E4%B8%8B%E3%81%AE%E6%96%B0%E9%81%93">
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    <title>6.地下の新道</title>
    <description>「大丈夫？もう、動ける？」
動けるが大丈夫ではない。先ほどまでアレフの身をさいなんでいた脱力感は消えていた。突然の喪失。死に瀕していたしもべが逝った。誰なのか分からないもどかしさに、硬い壁を叩いた。ノミあと鋭い岩肌に拳が切れる。

顔を上げると、小作りな手が差しのべられていた。こんな時のティア...</description>
    <content:encoded><![CDATA[「大丈夫？もう、動ける？」<br />
動けるが大丈夫ではない。先ほどまでアレフの身をさいなんでいた脱力感は消えていた。突然の喪失。死に瀕していたしもべが逝った。誰なのか分からないもどかしさに、硬い壁を叩いた。ノミあと鋭い岩肌に拳が切れる。<br />
<br />
顔を上げると、小作りな手が差しのべられていた。こんな時のティアは優しい。ほだされそうになって、気を引き締める。計算を感じる。もし演技でないとしても、馬に塩や黒糖を食わせ、重い荷を運ばせようとする馬丁の愛情だ。<br />
<br />
とはいえ、暗い地下道で座り込んでいても仕方ない。急がないと夜が明ける。方向感覚と距離感が狂っていなければ、間もなく始原の島を包む結界をぬけ、キニルの地下に至るはず。<br />
<br />
メンターの後姿を見送り、無人となっていたホーリーテンプルの図書館に立つくした時から、半日は経ったろうか。<br />
音を伝えぬ結界を仕掛けられたぐらいで、学徒たちの避難にも、建物を囲む騎士や拳士の気配にも気付けなかったとは。<br />
<br />
知的な興奮に支配された時、傍目にどんな醜態をさらしているか…自覚はしていたが、印刷機の音がしない事すら気付かなかったウカツさには笑えた。<br />
<br />
表の扉から出る事は叶わないが、図書館にも地下に抜ける通路は存在する。確か禁書庫と呼ばれる北の一角。<br />
<br />
記憶に従い、床のくすんだ渦の意匠に手を這わせた。地下に待ち伏せの気配はない。渦の中央を押し込み、代わりにせり上がった白波に指をかけ、丸い床石を引き開けた。<br />
<br />
地の底へ、らせんに切り込む急階段に足を踏み入れ、内側から床石を戻した。<br />
<br />
闇の中へ下りながら案じていたのは、鉄格子が閉じていた時のこと。強力な結界に邪魔され転移の術が使えないのでは、すぐに袋小路へ追い詰められてしまう。<br />
<br />
だが、心配は無用だった。<br />
これ見よがしに開いた鉄格子の前に、ティアとドルクが転がされていた。ロウソクとガラスの水器を術具とした、心話を通さぬ結界に包まれ、手足を戒められて。<br />
<br />
そして今、ティアのポケットに入っていた地図に従い、未知の通路を進んでいる。方角は南。なだらかに続く上り坂。手掘りと思われる壁と天井は雑で、2人並ぶのがやっとという狭さ。絶え間なく雫が落ち、真ん中に切られた溝にせせらぎの音。<br />
<br />
いい様に利用された気がする。マルラウを血の絆で縛った事すらメンター副司教長の計画の内ではないかと。<br />
あるいは、返しきれない恩を売られたか。求めていた知識と、脱出手段。どれほどの値《あたい》となるだろう。<br />
<br />
庶子であろうと出家していようと、シンプディー家の者。貸しを取りはぐれるとは思えない。ウォータでオーネスがどれほど利殖に励もうと、動かせる資金の量において、田舎領主が敵うものでは無い。相手は教会を実質的に統べる者。<br />
<br />
「出口、近いんじゃないかな」<br />
ティアが天井を指す。いつしかレンガのアーチになっていた。岩盤を抜け土の層に達したらしい。頭を重くする結界も少しゆるんでいる。やがて階段が見えてきた。うっすら緑に染まっている。時折、光が入るらしい。<br />
<br />
階段の先は下水の一角。すぐ近くで湖へ流れ落ちる水音がしていた。音と微かな光に導かれ、悪臭とぬかるみの中を行く。湖岸に密集する掘っ立て小屋、その屋根に渡された板の上に出た。<br />
<br />
「勝手に見物するな！　銭を払え！」<br />
飛び出してきて怒鳴り散らすのは、ミノムシのごとく着膨れた老女。銀貨を投げ渡すと、少し声を抑えて、勝手に地下道の来歴を説明し始めた。<br />
<br />
木のハシゴを降りていた耳に、英雄モルの名が飛び込んできた。<br />
「へぇ、こっから忍び込んでファラを滅ぼしたんだ」<br />
先に降りたティアが、流れ落ちる汚水を振り返る。<br />
「下水の整備にカコつけてね。10年かけて掘ったのさ。生き埋めになったり、急な出水で溺れ死んだりしながら。おや、聖女さまでしたか。実際に見るのは初めてですか？」<br />
<br />
立派な堤防をモグラが潰えさせるように、不変と思われた夜の女王の御世を終わらせたのは、下水に掘られたみすぼらしい地下道だったか。ティアに地図を渡した者のヒネクレた諧謔《ユーモア》には、苦笑いするしかない。<br />
<br />
（アレフ様）<br />
微かな心話に、浮かべた笑みが消える。覚悟してイヴリンに応えを返した。<br />
（カウルの城を守る衛士が、討たれました）<br />
湖の側から早足に離れながら、カウルへ意識を向ける。村の代理人は無事だ。しかし、城内にいたはずの、人とそうでない者達、しもべの気配はほとんど消えていた。感じられるのは…<br />
<br />
（奇妙なのですが、テンプルの者達の中に、しもべの気配があります。異形の剣士。彼は何者です？）<br />
テオか。<br />
（ティアに恋こがれる奇特な若者だよ）<br />
だが、何か気配がおかしい。<br />
<br />
（バフルに被害はありません。カウルをはじめ、周辺の集落に関しては避難が間に合いました。ですがクインポートでは犠牲者が出たようです。反逆者、いえ町長は捕らわれて地下牢に）<br />
すべては、長らく留守にしていた私の罪か。<br />
<br />
（どうなさいますか。いっそカウルの城に閉じ込めて飢死にでも）<br />
（隋道を埋めたぐらいでは、封じられまい。私が行く。あの者を葬ることが、我々とテンプルの間で取り交わす盟約の条件らしい。それにもし、彼に全ての記憶があるなら…最期に話す相手として最適だ）<br />
<br />
（ですが）<br />
「ティアさん、モルがカウルの城にいるそうです。直接、転移しますか」<br />
水晶を道端で掲げ、転移の方陣を展開しながら振り返った。<br />
「もうすぐ夜明け？」<br />
「大地の真裏だから、向こうは日没です」<br />
<br />
「歩き疲れたから、少し休みたい。あんたも真夜中の方が調子いいんでしょ？」<br />
転移先をバフルに変え、イヴリンに知らせながら、少しほっとしていた。<br />
<br />
荒らされた街を見たら、城で身近に仕えていた者の遺体を前にしたら…冷静でいられる自信が無い。<br />
だが、あれほど復讐に燃えていたティアは冷静だ。<br />
なら大丈夫。<br />
結果はどうあれ、悔いが残るような事にはならない。<br />
<br />
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<br />
]]></content:encoded>
    <dc:subject>第十七章 生きて還りし者が語る</dc:subject>
    <dc:date>2008-09-16T19:01:08+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>久史都子</dc:rights>
  </item>
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    <title>5.命の水</title>
    <description>日あたりの良い北向きのテラスから、モルは方形の中庭を見下ろした。
「200年…招待を受けてからずいぶん時が過ぎましたが、やっとあなたの城館に来ることが出来ましたよ」
地を這うコケモモ。寒冷地でも育つ白バラの茂み。他に見るべきものはない。

南の書庫から持ち出した手書きの書物に視線を戻した。時...</description>
    <content:encoded><![CDATA[日あたりの良い北向きのテラスから、モルは方形の中庭を見下ろした。<br />
「200年…招待を受けてからずいぶん時が過ぎましたが、やっとあなたの城館に来ることが出来ましたよ」<br />
地を這うコケモモ。寒冷地でも育つ白バラの茂み。他に見るべきものはない。<br />
<br />
南の書庫から持ち出した手書きの書物に視線を戻した。時と空間についての思弁的な論説。線の細い小さな文字に、顔がほころんだ。<br />
「懐かしい。それに新しい」<br />
<br />
容姿だけが取り柄だと、周囲もご自身も、低く評価されがちだった。実際、会うまでは軽んじ、内心あざ笑っていた。<br />
<br />
ファラの歓心を買うために、容姿と知能に優れた配偶者を求めて子を成すなどという、地道な方法を選んだ愚直なイナカ者。イモを改良するように、わが子を並べて跡取りを選んだに違いないと。<br />
　<br />
だが、ウェゲナー家は成功した。泥臭い方法で20年の間にファラの弟子を2人も輩出してのけた。さげすみと嘲弄は嫉妬の裏がえし。それに…<br />
<br />
「私の話を初めて真剣に聞いてくれた太守」<br />
人間相手の論戦に負けた悔しさを、尊敬に昇華して乗り越えた柔軟な不死者。8番目の弟子であるかのように、私の助命に奔走してくれた、ファラの秘蔵っ子。<br />
<br />
人などが語る夢を支援してくれたのは、私の弟子たちと同じように若かったから、でしょうね。あなたもお父様も当時は300歳…人の命を手折るのに慣れても、血と共に味わった思いと記憶が澱のように心にたまり、なにがしかの影響を受けるお年頃。もしかすると、<br />
「初めて食らった人間の名を覚えているくらいに、ウブだったとか？」<br />
<br />
その気になれば数日で覚えられる、簡略化された表音文字と数字。教会に人を集め、1人の教育官が1度に大勢に、それを教える。<br />
<br />
誰もが文字を書いて読める様になったら、みんなで、どうすれば幸せになれるか"考えられる"ようになる。<br />
<br />
世界中の人が同じ数字を使えば、契約や取引が、そして貿易がもっとさかんになって、豊かさを分かち合える。<br />
<br />
そんなタワイない夢を本気で信じてくれた理由。あなたが味わってきたこの大陸の人が、みんな貧しくて不幸だったからでしょうか。<br />
<br />
でも、世界中に教会ができて、商人たちが大きな取引をするようになっても、富んだのは最初から豊かだった中央大陸と森の大陸でしたね。<br />
<br />
それにしても、商人たちの信頼を得た教会が、遠方の取引には欠かせない為替を管理するようになり、その保障となる黄金を、地下の保管庫に預かることになったのは嬉しい誤算でした。<br />
<br />
ひそやかに営む金融業で教会の活動資金は膨れ上がるし…厳重に護られ、不可侵とされた地下の金蔵は、公に出来ない術を研究する場所として、うってつけでした。<br />
<br />
ホーリーシンボルを始めとする破邪の術は、すべて教会の地下金庫で開発されたもの。<br />
「あなたは知らずに手を貸していたわけです。ご自分や友人や愛する者を滅ぼすテンプルに」<br />
<br />
でも、最初の夢は叶ったでしょう。<br />
私がファラを滅ぼしたあと、取り巻きどもは東大陸に逃げ込んだ。連中が持ち込んだ資産と職人たちのお蔭で、東大陸は今、繁栄のただ中にある。<br />
<br />
「夢…か」<br />
もちろん、あの頃は私も信じていましたよ。皆が幸せになれる道があるはずだと。いや、信じていたのは、生意気にも私を抑え込んで、知識だけを利用していた、開祖モルですがね。<br />
<br />
「区別するのはおかしいですね。私だった者の全ての記憶は、欠けることなく受け継いでいるのですから」<br />
<br />
ファラに両腕を奪われた私のために、あなたは逃げ散った弟子たちを探し出してくれた。聖騎士の祖となったガディと、聖女の称号をはじめて名乗ることになるウェデン。2人に私が釈放される場所を教えた。一昼夜、飲まず食わずだった私のために、壷煮の牛乳がゆとバフル産のワインを託してくれた。<br />
<br />
「あの白ワインは本当に美味しかった。まさに命の水でした。<br />
いつかお返しをしたいと思っていたんですよ」<br />
<br />
父親を滅ぼせば、引き継ぐためにあなたは目覚めさせられる。そう思って、あなた好みの若い司祭を、聖騎士と聖女に託しました。<br />
「40年ぶりの命の水…気に入ってもらえましたかねぇ」<br />
<br />
それにしても、スフィーで噛み跡のある司祭を見たときは驚きました。記憶を戻す術をかけて、あなたが私を追って来ていると知った時は、胸が高鳴りました。あれから夜毎《よごと》、あなたの襲撃を待っていたんですよ。<br />
<br />
でも互いに旅の空の下では、すれ違うばかり。なんだか男女の恋を描いた、ありがちな人形劇でも見ているような、もどかしい日々でした。でも…<br />
「ここで待っていたら、もうすれ違いはないでしょう？」<br />
<br />
門番や通いの女中を殺したのは申し訳なかったと思いますよ。普通、ヴァンパイアの棲み家への招待状など受け取ったら、腕に覚えのある用心棒を集め、幾重にもワナを仕掛けて待ち構えていると考えるものです。<br />
「まさか“招待”を本来の意味で使っていらしたとは」<br />
そういう素直で単純なところが、実にあなたらしい。<br />
<br />
「それにしても…遅いですね」<br />
クインポートや、この城の惨状がまだ伝わっていないのでしょうか。麓の村の代理人から心話を受けたら、すぐにも飛んで来ると思っていたのに。<br />
<br />
ドラゴンの生き残りをてなづけて空を駆けているとウワサを聞きました。それに、森の城にいったなら、転移の呪も見たはず。あなたなら解いてモノにしていると思ったのですが。<br />
<br />
「もしかして、心話の通じない場所におられる？」<br />
始原の島。ホーリーテンプルを守る強力すぎる結界の内なら、あり得るかも知れませんね。<br />
<br />
「吸血鬼を倒すのだと意気込む若人たちの夢。富や地位を求めていがみ合っていた老人たちの野望。全て無残に食い裂かれましたか」<br />
<br />
せっかく手に入れた世界の中心ですが、いた仕方ありません。それに私さえいれば、テンプルは幾つでも、何度でも作り直せる。<br />
「生意気なメンターに、もう会えないのは残念ですが」<br />
お互いに帰る場所を潰しあったって事で、恨みっこなしでしょう。<br />
<br />
さて、日がだいぶ西に傾いてまいりました。<br />
単に領内でお休みということなら、そろそろお目覚めになる刻限。私の訪問と、留守をまもる衛士の死に様を知るはず。あなたは怒るでしょうねぇ。<br />
<br />
なるべく早く、怒りに任せて私の最高傑作たちと戦い、ここまでたどり着いてください。<br />
<br />
もし数日以内に来ないなら、あなたの大切なテオを、殺して殺して殺し続けて、繰り返される断末魔の叫びで、呼び寄せることも考えなくてはなりません。<br />
<br />
あなたの長年にわたる親切と友情に報いるためにも、私のこの手で、滅ぼしてさしあげたいのです。<br />
灰の一粒も残さず…完璧にね。<br />
<br />
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<br />
]]></content:encoded>
    <dc:subject>第十七章 生きて還りし者が語る</dc:subject>
    <dc:date>2008-09-14T00:17:58+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>久史都子</dc:rights>
  </item>
  <item rdf:about="http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%AB%A0%20%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E9%82%84%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B/4.%E3%82%AB%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%B1%B1%E5%9F%8E">
    <link>http://akaitinoato.blog.shinobi.jp/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B8%83%E7%AB%A0%20%E7%94%9F%E3%81%8D%E3%81%A6%E9%82%84%E3%82%8A%E3%81%97%E8%80%85%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B/4.%E3%82%AB%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%B1%B1%E5%9F%8E</link>
    <title>4.カウルの山城</title>
    <description>白茶けた岩の間をハイマツが緑で埋める山肌に、急な坂道が刻まれていた。馬1頭、走りぬけるのがやっとの道ハバ。登っていくと、朝もやの向こうに背丈の3倍はある滑らかな石壁が見えてきた。道に迫る石壁の間に四角い闇が開いている。

城へ通じる隋道。その前に、ワーウルフが1頭、待っていた。鮮やかな黄色に黒の...</description>
    <content:encoded><![CDATA[白茶けた岩の間をハイマツが緑で埋める山肌に、急な坂道が刻まれていた。馬1頭、走りぬけるのがやっとの道ハバ。登っていくと、朝もやの向こうに背丈の3倍はある滑らかな石壁が見えてきた。道に迫る石壁の間に四角い闇が開いている。<br />
<br />
城へ通じる隋道。その前に、ワーウルフが1頭、待っていた。鮮やかな黄色に黒の鉄片が縫い付けられた布ヨロイ。大きなハチに見えた。<br />
「お待ちください。まだ歓迎のお支度が整っておりません。1度、カウルの村にお戻りいただけませんか」<br />
獣の口がつむぐ言葉は、くぐもっていた。<br />
<br />
「…つまり、アレフは留守ってことですか」<br />
モル司祭は、ワーウルフを指差し、俺に笑顔を向けた。<br />
「こいつを殺しなさい、テオ」<br />
<br />
背中の剣に手をかけたが、抜けなかった。<br />
「何で…？」<br />
「じゃあオーエンでいい。こいつを殺って下さい」<br />
聖騎士が銀の剣を抜いた。<br />
<br />
戸惑っていたワーウルフが飛び退り、四角い闇に消える。眼をこらすと黒い槍を壁際から取る黄色いしまヨロイが見えた。オーエンが突っ込む。金属がぶつかり合う音がした。<br />
<br />
「港に降り立った時から、戦いは始まっているんですよ。この城内にいるのは、全て敵です」<br />
そうだ。あのワーウルフはアレフの手下。倒さなきゃ、ティアを救えない。<br />
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剣を抜いて四角い闇の中に足を踏み入れた。薄暗い中で、オーエンとワーウルフがやりあってる。間合いの違いと地の利でオーエンは攻めきれないでいた。<br />
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身をかがめて大剣を抜いた。この武器なら槍の間合いでも、届く。石の床を蹴って、突っ込んだ。オレのほうに向いた槍の穂を、横合いからオーエンが脇に押さえ込む。動きが止まった獣人の胸を、大剣で貫いた。<br />
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骨が砕けつぶれる嫌な感触と歪んだ悲鳴。<br />
「やった」<br />
剣を引くとワーウルフはくたりと倒れた。毛が抜けて鼻が縮んでいく。死に顔は人。頭が薄くなりかけたおっさんだった。最期は呪いが解けて元の姿になるよう定められているらしい。<br />
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「まだです」<br />
真後ろからモルの声がした。胸の大穴が少しずつふさがっていく。おっさんの指が動き、目が開いた。<br />
「くたばれ！」<br />
オーエンがおっさんの首に剣をつきたてた。ヒュッと息がなる。今度こそ…だが、剣を抜くとまた、キズが治り始める。<br />
「不死…なのか」<br />
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オーエンが胴を両断しても首を切り落としても、頭を潰しても、ずたずたに切り裂いても、血が集まり肉片はうごめき、くっついて再生しようとする。かき出した腸の断片が、うごめき1本に繋がっていく光景から、目が離せない。<br />
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「ああ、わかりました」<br />
モル司祭が血だまりに浮かぶ腕を見下ろす。切り落とされた手首を足で踏みつけると短刀を振るった。指が落ちる。中指を拾い上げ、指輪を抜き取った。<br />
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うごめいていた肉塊が静かになった。<br />
「死ねない呪いがこもった指輪です」<br />
軽く投げ渡されたのは血色の指輪。宙で受け取ってドキリとした。同じものがオレの指にもはまっている。指が太くなっても食い込まず、外れない紅い指輪。確かティアの指にもはまっていた。<br />
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「たぶんアレフの魔力を受けて、生命力に変える術具でしょう」<br />
肩をすくめると、モル司祭は床に溜まった血を指につけ複雑な魔方陣を描き上げた。<br />
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もう1つの塩で描いた円の中に入り、ルシウスやテオも側へ来るよう手招きしてから、呪文を唱えはじめた。長い詠唱。赤い魔法陣から気味の悪い煙がたちのぼり形をなして行く。一抱えはある虫。硬そうな大トカゲ。見たことの無い生き物ばかりだ。<br />
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モルが塩の円の中から小瓶の粉を降りかけ、紅い石をかざす。固まりかけていた獣や太いミミズが、崩れて混ざって、かたまった。現われたのは寄せ集めの生き物だった。こいつらはオレに近いモノだ、そう感じた。<br />
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モル司祭は次々と怪物を魔法陣から呼び出し、異様な姿に混ぜて固めて、城の奥へと向かわせた。吐き気のする行進だった。<br />
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闇の向こうで、争う音と悲鳴が聞こえた。<br />
「行きましょうか」<br />
塩の輪から出て、モル司祭が笑う。剣をぬぐっておさめ、ランタンに火を入れて、隋道の奥へ進んだ。<br />
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掲げたランタンの灯に、引き裂かれた大コウモリや、食い裂かれたオオカミが照らしだされる。人と獣の中間の死骸。侵入者をはばむ落とし穴の底であがく異様な怪物。それらが暗闇の中からむっとした血の匂いとともに現れた。人の遺体としか思えなものもあった。手にはホウキ…掃除婦かもしれない。<br />
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城は廃虚じゃなかった。でも荒らされ血と死体だらけ。動いているのは異形の怪物とオレたちだけ。恐れていたヴァンパイアの襲撃はなかった。アレフは仲間を増やそうとは思わなかったのだろうか。<br />
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少しマシな地下室で棺を見つけた。空っぽだった。<br />
「やはり戻ってはいないようですね。では、待ち伏せといきましょう」<br />
モルが笑う。<br />
「テオ、まさか怖じ気づいたのではないでしょうね」<br />
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急いで首を横に振った。でも今までの出来事に…殺戮に、心が悲鳴を上げていた。なぜかアレフやこの城の者より、召喚された怪物どもやモル司祭のほうが恐ろしかった。<br />
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「あんな怪物を召喚して、大丈夫なんですか」<br />
もし、城の外へ出て、村を襲ったりしたら。<br />
「ここでアレフがしていた悪事に比べれば、たいした事ではありません。大きな悪を滅するのに正攻法だけでは無理です。我々はか弱い人間なんです。あらゆる手段手を駆使しなくては。この大陸に夜明けをもたらすためですよ」<br />
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モル司祭が暗がりの中で手招きする。従って降りた先に地下牢があった。いくつもの鉄格子が並ぶ暗い通路。森の城の地下にもあった。さらわれた村人が閉じ込められていた。でも、ここには誰もいない。<br />
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「アレフの食料庫ですよ。気が向いたときに楽しめるよう、人間を閉じ込めておく地下牢。やつの食欲を満たすためだけに、捕らえられた罪もない人々の、絶望と無念が石壁に染み付いています」<br />
なえかけていた、怒りがかき立てられる。<br />
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「あなたが負けたら、ここは“順番”を待つ人間でいっぱいになる。この大陸の人々はいつ狩られるかわからない、不安な夜を過ごすことになる。ずっとね」<br />
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城の上の階は、静かだった。城を守る者とモル司祭が召喚した異形の怪物との攻防は、主に地下で決着がついたらしい。今はもう、争いの音はない。<br />
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むき出しの石の壁。荒削りのアーチ。簡素な木の燭台。錆びかけたよろい戸から日の光が糸の様に入り込んでいた。<br />
荒れた森の城にはあったタペストリーやカーテン、華やかなガラスの大窓は見当たらない。<br />
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1階の台所には茹でかけの牛肉。すぐ側の倉庫には酒樽と麦の袋が積み上がっていた。棚には硬いチーズがならび、くんせい肉がぶら下がっている。木箱に詰ったイモと干した果物を見つけた。ねばつく甘味が、落ち着いた気持ちを思い出させてくれた。<br />
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2階の食堂と客室は宿屋の様に整えられていた。新しいシーツと暖炉の横に積み上がった薪。突然、住人が消えてしまった昔話の村を思い出した。<br />
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3階のホールは明るかった。太く無骨な柱が邪魔だったけど、ここにはガラスを贅沢に使った窓があった。<br />
「ここで待ちましょう」<br />
モル司祭の言葉には、心から賛成だった。死体と血と闇からは、なるべく遠ざかっていたかった。<br />
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    <dc:subject>第十七章 生きて還りし者が語る</dc:subject>
    <dc:date>2008-09-12T00:02:32+09:00</dc:date>
    <dc:creator>久史都子</dc:creator>
    <dc:publisher>NINJA BLOG</dc:publisher>
    <dc:rights>久史都子</dc:rights>
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